第24話 この異世界の金融

 アティナは四つん這いになって穴の中を覗き込んだ。


「うわぁ。クルス。これ何?」


 顔をクルスの方に振り向けて、問い掛ける。


「アイテムだよ。モンスター狩りをしてた時から、ここに集めてた。これを街で売って換金しようかと思ってる」


 クルスはアイテムに視線を向けると、空中にその名前と効果が現れた。


『ゴブリンの爪』

 効果:ポーションという回復薬の素材。


 クルスはアイテムを一つ一つ確認しながら、腰の袋に収納して行った。

 アイテムは袋に吸い込まれる様に入って行く。


「うわぁ! 小さい袋に大きなアイテムがどんどん入ってく!」


 アティナが目を丸くして驚いている。


「収納袋っていうんだ。空間魔法が施してあって、100個のアイテムまでなら収納出来るんだ」

「へぇ~。どうしてそんなの持ってるの?」

「便利だからね。『ワイルドボアの毛皮』と『緑の魔法石』を錬金したら出来た」

「錬金……?」

「錬金術師にお願いして、アイテムとアイテムを組み合わせて新しいアイテムを作るんだよ」


 これから行こうとしている港町マドニアには、アイテムを買い取ってくれる店が沢山ある。

 そして、錬金術師も常駐している。

 クルスはモンスター狩りを始めた時から、収納袋だけはすぐに手に入れておきたかった。

 だから、収納袋は必要なアイテムが揃った時点で、すぐに港町マドニアに行き錬金してもらった。


「これは一体どう使うんだろう?」


『オークの牙』

 効果:??????


 確かコーツィを助けた時に、倒したオークがドロップした物だ。

 効果が分からないアイテムは、錬金術師に鑑定してもらうか、文献で調べるしかない。


「このキラキラした物は?」


 アティナが赤い色の丸い石を、月明りに照らして見ている。


「魔石だよ」

「魔石?」

「魔道具の素材になったり、色んな事に使えるから高く売れるよ。それは赤いから炎の魔力を宿しているね」


 クルスにとってはゲームで周知の事実だが、アティナにとっては初めて知ることばかりだった。

 ある意味クルスはこの異世界の仕組みを知っているが、アティナにとってはこれらの事実は不思議なことばかりだった。

 クルスはアティナが手を叩いて納得したり、なるほどと言って頷くのが嬉しかった。


「アティナ、袋のアイテムをマドニアで売るよ」


 ドラゴネスファンタジアのモンスターは金をドロップしない。

 金を稼ぐにはアイテムを売ったり、クエストをこなしたり、それこそパン屋を経営するしかない。

 金を稼ぐ術が限られているのがゲームの特色であり、どう効率良く稼ぐか考えるのが面白いところだった。

 それは異世界でも同じだった。


「まだ沢山あるよ」


 アティナが穴の中のアイテムを指差す。


「もう袋に入らない。もったいないけど置いて行くよ」


 そう言うと、クルスは石を穴の上に戻した。


「さ、アティナ。夜中の間に行こう」

「うん……」


 クルスは宵闇に隠れて、夜が明ける前にマドニアに行こうと考えていた。


ザザザザ。


 目の前の茂みが揺れる。

 小さな影。

 それがクルスとアティナの様子を窺っている。


(モンスターか……)


 クルスは腰に差した剣に手を掛けた。


つづく

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