第23話 これからどうするか

 クルスとアティナは焚火を間にして、向かい合っていた。


 真っ黒な空には、沢山の白く輝く星。

 

 そんな美しい空に、吸い込まれる様に焚火の煙が舞い上がって行く。


 二人は森の中で、夜が明けるのを待っていた。


「クルス、焼けたよ?」


 アティナがワイルドボアの串焼きを、クルスに手渡した。


「ありがとう」


 焚火の火で良く焼けたワイルドボアの肉は、塩と胡椒で味付けされ、良い匂いがした。

 モンスターの肉を食べるのはこれが初めてのクルスだが、空腹で家を飛び出した彼は迷うことなくかぶりついた。


「美味い」


 倒されたモンスターは、アイテムをドロップし、死体となる。

 死体は一時間経てば消滅するが、その前に解体し、毛皮と内臓、肉などに分けることが出来る。

 今までクルスはモンスターを倒すと解体し、毛皮や爪は保存しておいたが、内臓と肉は捨てておいた。

 だが、これからはモンスターの肉だって食べなければならない。


「アティナも」

「うん……」


 それは共にパルテノ村を捨てたアティナにも当てはまった。

 アティナはほんの一口に齧った。


「……美味しいよ。クルス」


 小さな唇を肉の脂で光らせている。

 笑顔だった。


「そっか。良かった」

「先にクルスが毒見してくれたから、安心して食べれたよ」

「毒見?」

「あ、ゴメン。味見か」

「おいおい、僕を殺す気か!」


 クルスはアティナの冗談にホッとした。


 内心、そんなアティナにすまないと思っている。

 だが、彼女は何も言わずに着いて来た。


「どうして?」

「パン屋はどうするの?」

「お父さんとお母さんはどうするの?」

「これからどうするの?」


 言いたいことは沢山あったと思うが、自分の側に着いて来てくれたことは素直に嬉しかった。


 ただ、これからが問題だった。


 これを衝動的な家出として、終わらせる訳にはいかなかった。


 どこか二人で、一生ずっと一緒にいられる場所を見つけて、そこで生きなきゃいけない。


「住む場所……か……」


 森を抜け、街道沿いに5キロ程歩けば、港町マドニアがある。


(そこから定期船に乗って、このコヒード大陸を出よう)


 今のクルスにどの大陸を目指すかを、選んでいる余裕が無い。


(兎に角、来た船にすぐに飛び乗る勢いでないと……。迷ってたら捕まってしまう)


 追手を殺すことは出来ない。

 ゲームでは人間を決闘でない限り、攻撃したり殺せば、ペナルティを喰らっていた。

 この異世界では、どうだろう?

 何よりアティナの前で、そんな野蛮なことは出来ない。


(船に乗るには金が要るな……)


 所持金は銅貨10枚だ。

 これじゃ、安い宿屋に2泊ほどしか出来ないし、定期船に乗るなんて夢だ。


「よし! アティナ、ちょっとどいて」

「……うん」


 アティナが背にしている岩。

 クルスはそれに両手を当て、押した。

 岩が元あった場所には穴があり、そこには様々なアイテムが置いてあった。


つづく

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