第19話 ヒロインは着せ替え人形

「ええいっ! 受け止めてばかりでは勝負にならんっ! 向かってこぬかっ!」


 ガイアナ姫がクルスを挑発する。

 挑発の中にも苛立ちを感じる。

 それは自分が認めた男が、正面から勝負してこないからだろう。


(姫様……それは無理ってもんですよ)


 これだけのレベル差があれば、まともに戦えばこちらが損をする。


 あくまで今は、『防御』の姿勢。


 クルスはチャンスを待っていた。


 迫りくる剣山の隙間から、彼はガイアナ姫の胸元をじっと見る。


 特に首から胸元……デコルテの辺り、そう、ここだけは純白の鎧で守られていない。

 つまり、素肌ということだ。


 オシャレなガイアナ姫は、ゲームではオシャレな装備を好む。


 例えば、『メイド服』。


 ゲーム序盤で手に入る防具だ。

 ガイアナ姫が庶民の恰好をしたいということで、買い与えるとクルスへの好感度が上がるというイベント。

 その後、彼女は偽名を使ってメイドとして宿屋でアルバイトを始める。


 そして、『空色のビキニ』。


 ゲーム中盤、海に潜む主を倒すイベントで、海に潜る必要がある。

 その時、ガイアナ姫が選ぶのが、肌の露出が激しい水着だ。


 その他にも……


 兎に角、彼女は防御力よりもオシャレを優先する傾向があった。

 実際、ゲームでも装備を変えると、見た目が変わる。

 ガイアナ姫が装備出来る防具を全て集め、様々な見た目を楽しむゲーマーはクルスが知るだけでも数百万人はいた。

 事実、各種SNSには彼女のあられもない姿のスクショがアップされていた。


 もちろん、ガイアナ姫はゲームでは一番人気だった。


 そして、この異世界でも彼女はオシャレらしい。


 彼女が今身にまとっている純白の鎧は、正にデザイン重視のもの。

 ガイアナ姫のスラリとした身体にフィットする様に作られ、ところどころ、そのきめの細かい白い肌を露出させるように作られている。


「ふう……」


 そのガイアナ姫の攻撃が止まった。


 クルスの脳裏にある言葉がよぎる。


 『再発動時間リアクティブタイム


 スキルを繰り出した後、同じスキルを発動するのに一定時間の間が必要になる。

 それはゲームでも異世界でも同じだった。


(よし! 今だ!)


 迷っている暇は無い。

 もう攻撃態勢に入っているガイアナ姫の懐に、クルスは飛び込んだ。

 と同時に、懐に忍ばせたあるモノを取り出し……


 ガイアナ姫に投げつける!


ベチョッ!


「ひゃうんっ!」


 それまでの勇ましいガイアナ姫のものとは思えない声音。

 内またになり、ガクガクと身体を震わせている。

 両手を口に当てたまま、涙目になり……


「やだぁ……。何よこれぇ……」


 彼女の白い胸元には、そう……


「ゲコゲコ……」


 緑の両生類。


 カエルが張り付いていた。


つづく

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