第18話 ずるくてもいい

◇◇◇


『ガイアナ姫


 ラインハルホ王国のメテウス王の娘。

 七英雄の一人、魔法剣士ポセドの末裔。

 14歳の時、末裔の証である紋章が左胸に浮かび上がる。

 それが元で、自身の運命を自覚する。

 レイピアと魔法を使いこなす。

 勝気な性格で、まわりくどいことが大嫌い。

 ただ、時間の経過とともに、クルスに対しては甘えた発言をする様になる。

 意外にも、XXXが苦手。』


 ドラゴネスファンタジア取扱説明書 登場人物紹介の章 3ページ目より


◇◇◇



「……さて」


 ガイアナ姫は白馬の鞍から、小さくて形のいい尻をヒョイと浮かせた。


トン。


 着地と同時に小さな爪先が鳴る。

 その瞬間、白銀の髪がフワリと広がって、すぐに一束にまとまった。


(う、美しい……)


 その優雅な一連の動作に、クルスは見とれてしまった。


 村人達も見とれていた。


 馬上から降りたガイアナ姫は、クルスよりも頭一つ背が低かった。


(かわいい……)


 ガイアナ姫の天使の輪の真ん中にある小さなツムジを見て、そう思った。


「さて、やるかっ!」


シャキイイッ!


 ガイアナ姫は鞘からスラリとレイピアを抜き出した。

 銀のレイピアは陽光を受けて、キラリとその刀身を光らせた。


 勝負はどちらかが、地に伏すまで。


「では……よろしくお願いいたします」


 クルスは渋々、鉄の剣を手にした。

 乗り気じゃないせいか、いつもよりズシリと重く感じる。


(さて、どうやってこれを、自然な感じでガイアナ姫に放つか……)


 クルスは自分の懐に忍ばせた、緑の物体を見てため息をついた。


 村人は固唾を飲んでこの決闘を見ていた。

 その中には、クルスの家族、そしてアティナも含まれていた。

 クルスは、自分の秘密が大衆に晒されたことを悲しく思った。


 向かい合ったままのクルスとガイアナ姫。


 ガイアナ姫のレベルは33。

 クルスのレベルは25。

 8つも高い。


 ゲームでもそうだった。


 設定上、クルスはガイアナ姫に負ける。

 だから、ガイアナ姫の方が常に強いという設定なのだ。

 その強さは……


 クルスのレベル × 1.3


 つまり


 25 × 1.3 = 32.5


 四捨五入で33。


 あくまでゲームの設定だ。

 だが、その設定はこの異世界でも適応されていた。


 当然、これだけのレベル差があれば勝つことは難しい。


(そう。普通に戦えば、だ)


 クルスは覚悟を決めている。

 元より、キレイに勝とうなんて思っていない。

 否、勝とうなんて思っていない。


「せやぁっ!」


 掛け声とともに、ガイアナ姫が突っ込んで来る。

 風の様に素早い。


ガキインッ!


 闇雲に鉄の剣でガイアナ姫の刺突を受け止める。


「そらっ! そらぁっ!」


 ガイアナ姫のスキル--


『百連突き』


 その名の通り、レイピアの刺突がまるで巨大な剣山の様になって、クルスを穴だらけにしようとする。


(本気だ……この人……)


 クルス、防戦一方。

 受け止めるのに精いっぱいで、攻撃を繰り出せない。


(あともう少し、距離が縮まれば……)


 クルスの懐にある物体……

 それが、彼の胸の辺りを這いまわっている。

 気持ち悪い。

 だが、その気持ち悪さこそ、切り札なのだ。


つづく

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