第17話 チート級のスキルを駆使してみた

 村は静寂に包まれていた。


 驚きの余り、誰も言葉を発することが出来ない。


 天を仰いだまま、気を失っている熊の様な男。

 それを、あっさりと一撃で倒した細身の男。


 まさかのクルスが勝つなんて……


 誰もが目の前の光景を信じられなかった。


 ただ、一人を除いては……


「戦意喪失……か……。情けないぞ。クラークソン。これでは兵隊長の地位も危ういな……」


 小さな鼻から息をついたのはガイアナ姫。

 眉を八の字にし、呆れ顔だ。

 部下の不甲斐ない姿を、馬上から見下ろしていた。


「さすがだな。クルスよ。救世主候補だけのことはある」


 クルスを見るガイアナ姫の瞳は、心なしか潤んでいた。


 そう。

 このガイアナ姫だけは、この結果を予測出来た。

 彼女は口元をほころばせた。

 まるでクルスが噂通りの実力者だと--

 それを確信出来たことを、喜んでいるかの様だ。


 そして、クルス。

 彼はガイアナ姫のこの微笑みに、心の中で絶望した。


(クラークソン兵隊長を一撃で倒せば、ガイアナ姫が僕に恐れをなすかと思ったが……甘かったか!)


 クルスはクラークソンを一撃で倒すため、あるスキルを発動させた。

 

『先手斬り』


 それはクルスが、レベル20の時に会得したスキルだった。

 これは、その名の通り、


"必ず対戦相手よりも早く攻撃することが出来る"


 ただ、先手を取るというメリットを得られる代わりに、通常の攻撃力が落ちるというデメリットがある。

 身体を風の様に軽くし、素早い攻撃を叩きこむ。

 身体が軽くなった分、物理的な攻撃力が一時的に落ちるのだ。


 つまり、攻撃力を犠牲にし素早さを優先する、というスキルだ。


 だが、先手を取っただけではHPが600を超えるクラークソンを一撃で仕留めるのは難しい。


 そこでクルスは、多少のMPを消費してでも、もう一つのスキルを同時に発動させた。


『正拳柄』

 

 これは剣の柄を高速で相手に叩きこむスキルだ。


"ヒットすれば通常の2倍の攻撃力を得られる。場合によっては、相手を気絶させることも出来る。"


 このダブルスキルで立ち向かった。

 スキルの二重発動はクルスがレベル23の時、出来る様になった。 


 序盤のパルテノ村にいながら、これだけ強くなるのはゲームでは無理だ。

 ゲームではモンスターを一定数倒せば、ガイアナ姫が現れるからだ。

 その時のクルスのレベルはせいぜい5~10。

 今、レベル25のクルスは身に付けたスキルを駆使し、鮮やかにクラークソンを倒した。


(やはり決闘は避けられないのか……)


 その証拠に、ガイアナ姫は馬上からクルスにある物を投げて来た。


「使いなさい」


 ピンク色の唇から、凛とした声が発せられた。

 クルスの手には、魔法水が入った小瓶がある。


(なるほど、これを飲んでMPを全回復させろと言うことか……)


 ゲームと同じ展開……


 やはり運命は変えられないのか。


 だが、クルスには秘策があった。


つづく

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