第16話 強制負けイベント

 ゲームでのガイアナ姫との戦いは、こう呼ばれていた。


『強制負けイベント』


 つまり、どう頑張ってもクルスはガイアナ姫に勝てない。

 ストーリーの都合上、ガイアナ姫と決闘してクルスが負けなければ冒険が始まらないからだ。


「ううっ……」


 クルスは返答に窮した。


 出来れば決闘したくない!


 負ければ、それはアティナとの別れを意味するからだ。


(それはダメだ!)


 ゲームではアティナと別れ、彼女を死に追いやってしまったけど、

 この異世界では……

 それだけは……


「すいません……僕……」


 クルスはため息の様に、謝罪の言葉を発しようとした。

 その時……


「ガイアナ姫様! ここは私、クラークソンにお任せください!」


 鉄の甲冑を身に付けた男が、ガイアナ姫とクルスの間に割って入って来た。


「クラークソン……私は……」

「いえ、姫は大事なお身体。王様からしっかり守る様に言われています!」


 太い眉に、ぎょろりとした目、口の周りに生えたフサフサとした髭。

 ごつごつした腕には、針金の様な毛が生えている。

 つまり、この男は毛が濃ゆい。

 クルスの2倍もある身長。

 まるで熊の様だ。


(そういえば……)


 クルスは思いだした。

 ゲームでもガイアナ姫との決闘の前に、このクラークソン兵隊長との戦いがあった。

 確か、クラークソンはそれなりに強かったが、勝てたはずだ。

 ガイアナ姫の強さを強調するための、役割がクラークソンなのだ。

 つまり、この熊の様な男は、かませ犬だ。


(もしかしたら……)


 クルスにある考えが浮かんだ。


「分かりました」


 クルスは一礼した。


「このクラークソン。手加減はせんぞ」


 クラークソンは腰を落とし、槍を両手で構えた。

 対して、クルスは腰に差した鉄の剣を鞘から抜き、構えた。


 静寂。


 戦いを見守る村人。


 皆、緊張し、手に汗握っていた。


 その中には、ナツヤもユナもデメルもいた。


 そして、アティナも……



(アティナ、僕は君を守る!)



「では、はじめ!」


 ガイアナ姫の号令と共に、決闘が始まった。


「おらぁ!」


 クラークソンは気合と共に、槍で突いて来た。


 素早い。


 だが、それは村人の目にとっては、だ。


 クルスの目には遅く見えた。


(日頃の訓練の賜物だな)


 クルスはただ村の治安のためにモンスターを狩って来たわけじゃない。

 自らのレベルアップも兼ねて狩って来ていた。

 E、Fクラスのモンスターばかり出現するパルテノ村周辺でレベルアップは困難だが、クルスはそれを倒す数で補った。

 つまり、寝る間も惜しんで戦って来た。


 そしてクルスの今のレベルは25。


 ゲーム序盤でパルテノ村でレベルアップ出来るのは、せいぜいレベル5くらいだ。


 だが、弱いモンスターでも数多く狩り続けたクルスは序盤では考えられないくらいの強さになっていた。


 当然--


「ぐわぁあああああ!」


 すれ違いざま、クラークソンの腹に剣の柄を叩きこんだ。


ドオオオン!


 熊が倒れたかのような音と地響き。


 クラークソンのHPは10


 勝負あった。


つづく

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