第10話 救世主はヒロインと出会いたくない

 クルスは深夜、家族が寝静まったのを見計らってから、外に出る。


(まったく、現実世界でも異世界でも、親って干渉して来るなあ……。もっと子供を信じろよな)


 そう思ったが……

 ユナのことを思うといつまでパン屋を続けるべきか悩ましかった。

 薬代を捻出するなら、ラインハルホ王国に仕官する方が給料は高い。


 所詮はなぁ、

 パン屋経営、

 ミニゲーム。


 ゲーム序盤でのモンスターとの戦力差を、武器の力で埋めるための救済策。

 つまり、パン屋で稼いだ金をちょっとした装備品の足しに出来る。

 本気でやったところで、稼ぎはたかが知れていたのだ……。


 だがっ!


 クルスは主張したい。


 金のためじゃなく、アティナと一緒にいるために、パン屋をやっているんだと!


(ここはゲームの世界とは違う。もっとパン屋で稼げるようになれば、母さんの薬代だって稼げるはず!)


 あと数カ月で死ぬ運命にある母。

 残りの時間を楽しく過ごしたい。

 そのためには、薬代が必要だ。


 誰もいない夜道を一人歩きながら、クルスはそう思った。


~~~


(間抜けな見張りめ……)


 見張り台の上で居眠りしている兵士を横目にクルスは、村の外へ出た。


「さてと……」


 村から北に10分ほど歩いた場所。

 森に囲まれた台地が、クルスの訓練場だった。


「1体、2体か……」


 森の陰から2体のゴブリンが現れた。

 その内1体がクルスに気付いた。

 手にした棍棒を振り回しながら向かって来る。


「そりゃっ!」


 モンスターの攻撃をスレスレでかわし、すれ違いざま、その脇腹に剣の一撃を叩きこむ。


「ゲオオォオオ!」


 断末魔を上げ、真っ二つになるゴブリン。

 新調したばかりの鉄の剣の切れ味は中々のモノだ。


「オゴエオオオオ!」


 もう1体は恐れをなして森の中へ逃げて行った。


「逃がすか!」


 クルスも森の中へ入る。


 月明りを頼りに、見失ったゴブリンを追う。

 だが、不気味なほどの静寂の中、時折、聴こえて来るのは鳥の鳴き声だけだった。


「今日は大した訓練にならなそうだな」


 クルスは日々、自主的にモンスターを狩っていた。

 それは、モンスターから村を守るという意図もあったが、本当の目的は別にあった。


(ガイアナ姫とだけは会いたくないっ……)


 ラインハルホ城のガイアナ姫がそろそろ、自身の運命に気付き始める頃だ。


 自領内の村がモンスターの脅威にさらされている。

 そのことが、彼女の耳に入れば、英雄の末裔である彼女はやる気満々で飛んで来るだろう。


 そして、ガイアナ姫はクルスと運命的な出会いを果たす。


 それだけはクルスにとって避けたいことだった。


 その運命的な出会いがきっかけで、冒険の旅が始まるのだから。


つづく

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