第11話 波乱の幕開け

「さぁて、帰るか」


 クルスの足元には、先程取り逃がしたゴブリンの死体が転がっていた。

 数分もすればその死体は無になる。

 その前に、ゴブリンがドロップした素材を袋に入れた。


ブンッ!


 剣に付着したゴブリンの血を薙ぎ払う。


(陰ながら人類を守る正体を明かしてはいけない英雄……それが……この……僕っ! クルス!)


 月明りの下、剣片手にポーズをとる。

 現実世界だったら、ただの痛い奴だ。


 だが、クルスには自負があった。


 パルテノ村の治安はデルマン率いるラインハルホ城の連中でなく、この僕が守っている。


 ……と。


 だから、ポーズくらい、とらせてくれ。


(僕は誰に言い訳してるんだ……)


「助けてー!」


 森の奥から叫び声が聞こえる。

 自然とそちらに向かってクルスは走り出した。


~~~


 森の奥にある開けた場所。


 血だまりにうつ伏せに倒れている初老の男。


 それを見下ろす、身長2メートルはあろうかという、釘の生えた棍棒を持つオーク。


 駆け付けたクルスの目の前に映る光景はそれだった。


「ブヒヒ!?」


 豚の化け物オークは、醜い鼻づらをクルスに向けた。


(良かった。まだ息がある)


 倒れている男はかすかにHPが残存していた。

 見覚えがある。

 昼間パンを買いに来ていた、ラインハルホ城から来たという男だ。

 きっと、城に戻る途中でオークに襲われたのだろう。


(……それにしても、オーク程のモンスターがパルテノ村周辺に現れるなんて……)


 ゲームのスタート地点であるパルテノ村。

 当然、弱小モンスターしか現れない。

 S、A、B、C、D、E、Fクラスに分かれたモンスター。

 パルテノ村周辺に現れるのはせいぜい、EかFのモンスターだ。

 確かに、稀にDが現れることはあった。


 オークはDクラスだ。


 こんなにも早く遭遇するとは……


 普段、EかFを相手にしているクルスは身構えた。


「ブブブヒヒヒィ!」


 蹄を地中にめり込ませながら、ズシズシとクルスに迫る。


「動きは遅いな」


 ステータス通り、ノロい。

 遅い、遅すぎる!

 典型的、脳筋モンスター!


 クルスは後ずさりしながら挑発する。


「ブブブヒ!」


 オークはその挑発にまんまと乗った。

 森の奥に逃げ込んだクルスを追いかけて来る。

 だが、木々が邪魔して中々先に進めない。


 地形を活用した戦い方は、ドラゴネスファンタジアにおいて常識だった。


「せいっ! そらぁっ!」


 深い草に足を取られ、かつ木々に囲われたオークはクルスに切り刻まれた。


「大丈夫ですか!?」


 クルスは男に近づいた。


「お、おお……そなたは、パン屋の……」

「はい」

「お強いですな……」

「それほどでも……」


 男は苦しそうだ。

 クルスは持参した薬草を使った。


「ありがとう。私の名前はコーツィ。ラインハルホ城で騎士をしていました。あれくらいのモンスターにやられるなんて不甲斐ない……」

「大丈夫ですよ」


 DクラスはNPCにとっては強敵だろう。


 クルスは一緒にラインハルホ城まで行くことにした。


 この行いが後に、クルスを波乱に巻き込むことになる。


つづく

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