第2話 最速クリア特典は、美女との謎の赤ちゃんプレイ!?

 久留洲は目を覚ました。


(なんだ? このフカフカのモフモフ感は?)


 何だかすごく居心地がいい。

 例えるなら、三ツ星最高級ホテルのベッドで寝ている様な感触だ。

 中流以下の家の子、久留洲は泊ったことが無いけれど……

 何だか甘やかな匂いがする。

 それはとても懐かしくて、久留洲を安心させた。


(どこなんだここは?)


 視力が戻って来たのだろうか。

 周りが微かに見えて来た。


 白いふくらみが目の前にあった。


 そして、その真ん中には……


「こっ、これは……夢にまで見たっ!」


 高校一年生の健全な男子である久留洲の目の前には、刺激の強すぎるものがそこにはあった。


「ああ……」


 そして、久留洲は本能的にその突起物にむしゃぶりついた。

 甘い液体が口中に広がる。

 不思議と、不埒な想いは湧いてこなくなった。

 その代わり、久留洲は何かに守られているかの様な幸福感に包まれた。


「まぁ、初めてお乳を飲んでくれたわ」


 その言葉に久留洲は顔を上げる。

 久留洲を見下ろす美しい女性。


「よくやった。ユナ」

「ナツヤが側にいてくれたから……」


 勇ましそうな男性の声が後ろから聞こえる。

 久留洲は首がうまく回らない。

 なので、視線だけを後ろに向ける。

 そこには勇ましそうな男性が笑顔で立っていた。

 美しい女性はユナという名前で、勇ましそうな男性はナツヤという名前らしい。

 久留洲は思った。


(なんだか聞いたことのある名前だ)


 そして、こうも思った。


(お乳……僕は、もしかして)


 自分が口に含んでいるふくらみと、自分に女神の様に微笑みかけている女性を交互に何度も見る。


 そして気付く。


 このふくらみが、女神のモノであると。


(こっ、これは……)

 

 ユナの瞳には久留洲が映り込んでいた。


「え? 僕?」


 そこには頭の毛もまばらな赤ん坊が映っていた。


(どういうことだ? なんで? なんで?)


 混乱する久留洲。

 どういうことか訴えたいが、言語機能がまだ出来上がっていないせいか……

 それは虚しく、


「あうあう」


 と手足をばたつかせるのみだった。


(はっ!? なにこれ!? こっ……この、謎の赤ちゃんプレイがクリア特典だとでも言うのか! 僕にそんな趣味はないっ!)


 久留洲は運営・開発元の会社『ギリシアン』に呼ばれた。

 最速クリアの特典授与式に呼ばれたからだ。

 楽しい式典だった。

 学校では陰キャでボッチの久留洲は、初めて人に囲まれ称賛された。

 そして、宴も最高潮を迎えた時、ギリシアンの社長が現れた。

 そこまでは覚えている。


 そして、気が付いたらこのザマだ。


「それにしても元気のないおぼっちゃまね」


 おっと。

 急に地面が遠ざかった。

 身長2メートルはあるかと思われる女が、ユナから久留洲を取り上げていた。

 なんだ、なんだ。


ビターン!


 いてぇ!

 その女の盾みたいな大きな手が、久留洲の尻を思いっきり叩いた。

 久留洲は文句を言おうとしたが、それは大きな泣き声として部屋中に響き渡った。


「うむ、やっと泣いたわね。赤ん坊は元気よく泣かなきゃ」


 大女は女とは思えない様な低い声を発すると、肩を揺らして笑った。

 泣き叫ぶ久留洲を見て、ユナとナツヤは嬉しそうだ。

 どうやらこの大女は産婆らしい。

 状況から推察するに、久留洲はこのユナとナツヤの子供なのだと悟った。


 こんなことがあるのか。


 現実世界の記憶を持ったまま赤ん坊として、異世界に生まれ変わるなんて。


 これが、最速クリア特典……?


 大女は久留洲をユナの元に返した。


「この子の名前はもう決めているの」


 ユナが久留洲の蕾みたいな鼻を撫でながら言った。

 彼女は目を細め、自らが生み出した命を慈しむかの様に見つめ、こう言った。


「私がママよ。クルス」


(クルス……)


「クルスか。ふむ。いい名前だ」


 ナツヤが頷く。


(クルス……)


 久留洲はこの異世界に生を受け、母から名前を授けられた時、確信した。


 ここは、


『ドラゴネスファンタジア』


 その世界だ。


 クルスはドラゴネスファンタジアの主人公の名前だ。


 目の前にいる夫婦はクルスの両親だ。


 


 都内のただの高校生だった山田久留洲は、


 救世主クルスとして……


 ドラゴネスファンタジアという異世界で新たに……


 生を受けたのだった。


つづく

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