第5話 勘違いの始まり

泣いてしまった私を電車から降ろしてくれた。

もちろん、彼も一緒に電車から降りていた。


「ご、ごめんなさい、もう、大丈夫、です」

「そうか?」

「は、はい。す、すみません、つ、付き合わせてしまって・・・・」

「なあ」

「は、はい」

「どうして、泣いていた、鈴?」

・・・・名前を、呼ばれた。

いつぶりだろう?

「な、なぜって、か、悲し、かった、から」

「何が?」

「悠矢、わ、忘れてると思った」

「何を?」

何を?

その問に、素直に答えたら、悠矢はなんて答えてくれるだろう?

「わ、私、を」

きっと悠矢なら、何を言ってんの?って、笑ってくれる。笑い飛ばしてくれる。

そう思ったのに。

悠矢の言葉はいつまで経っても聞こえてこなくて、そのかわりに、人の体温を感じていた。


「忘れる訳ないだろ、バカ」

「だ、だって・・・・」

忘れられていると思った。私なんか、覚えられていないと思ってた。

なのに、今、彼は私の隣にいて、私を・・・・

「ちょ、ちょっと、悠矢・・・・」

「何?」

「離して。これは、良くない」

私は悠矢に抱きしめられていた。

嬉しい気持ちもあるけど、こんなことされたら、私は勘違いをしそうになるから、やめてほしかった。


「嫌って言ったら?」

「え?」

悠矢は、私を抱きしめることが、嫌、じゃないの・・・・?

そ、それって・・・・


と、勘違いをし始めてしまった私だった。

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