第14話 あの頃に戻れたなら By 池谷

「この間の事を言っているなら、残念だけど、あの人は彼氏じゃないよ」

僕が彼女の教室の前を通った時、たまたま聞こえた彼女の言葉に、足を止めた。教室の中を覗くと彼女は隣の席の男と話していた。その後、彼女の周りには沢山人が集まってきた。

何があったんだ?いつもは一人でいるタイプなのに・・・・。

「私、あの日始めてあの人に会ったの。知らない人に急に抱きしめられて怖かったのよ」

「え、そうなの?」

その言葉から、僕のことを言っているのだと分かった。と、同時にその場から動けなくなった。

「池谷くんに抱きしめられるなんて幸せじゃないの?」

「贅沢」

周りの数人が悪意のある表情をしていた。

周りの人間は何を怒っているのだろうか。

僕が好かれたいのは、ただ、一人・・・・。

「どれほど人気者だとしても、知らない人に抱きしめられたら、恐怖しか感じないのよ。なんというか、そうね、痴漢とかと似てるものを感じたわ」

・・・・。

もう、無理かもしれない。

やっと、出会えたのに。

きっと、きっと、僕は調子に乗りすぎたのだろう。彼女に怖い思いをさせてしまったのかもしれない。


「え、つまりさ、青山さん、今フリー?」

「ええ。付き合ってる人いないし」

僕はその言葉を聞いて、涙が溢れた。


今までの自信は何だったのだろう。

いつから彼女を自分のものにしたいなんて、思ったんだろう。

迷惑をかけるつもりはなかった。ただ、会いたかった。

『貴方ならもっと良い高校だって行けるのに、そこでいいの?』

あの時に戻れたなら、僕は・・・・。

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