第12話 理由

次の日からあの男子―池谷くんは、私のそばを離れてくれなくなった。朝はホームで私を待っているし、電車も同じ車両に乗ってくる。電車が急ブレーキをかけた時にはすぐに私の手を掴んでくれて倒れるのを止めてくれた。

学校では先生の目もあって近づくことはできないのか、学校の外よりも距離は遠かった。だけど、帰りも校門の前のところで私を待っていた。

そんな一日を過ごして、疑問に思ったことが一つあった。池谷くんが全く話しかけて来ないことだった。だけど、それがなぜなのか、私は聞く気になれなかった。聞いたところで、池谷くんは私の初恋の人じゃないし、私が好きな人じゃないから。

私が池谷くんのお願いを聞いたのには二つ理由があった。一つ目は勘違いを教えてあげないと、と思ったから。池谷くんが想っている人は私じゃない。このままだと、本当に池谷くんの思いが伝わらなきゃいけない人に伝わらない。それに何より、その人の代わりが私なんて、とても申し訳なかった。だから私じゃないよって、伝えないといけないと思った。二つ目は助けてくれたお礼をしないと、と思ったから。

だけどこんなことを池谷君に言ったら、また変なことを言いそうだから、言うことはできない。


だからこの1週間、私は彼に気がついてほしいとは願いながら、池谷くんの本当の想い人に謝罪し続けていた。

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