第9話 住所

「これからどうするの?学校行く?」

その言葉に現実に戻された私は、さっき女の人に言われたばがりなのに、女の人のことを考えていて、あの男子のことを忘れていたことに気がついた。

「た、助けてくれて、ありがとう」

「お礼を言われるようなことはしてないよ。助けたのも、ただの自己満だし」

自己満・・・・?

私はあの男子に恐怖ではなく感謝の気持ちを抱いている今しか、私の疑問に思っていることを聞くことが出来ないと思ったので聞いてみることにした。

「あ、あの、どうして、私と同じ電車に乗っているんですか?」

「え?家が同じ方向だから?」

「・・・・でも、私の最寄り駅にも、来てませんか?ストーカーなんですか?」

「あはははは!」

何故か笑われた。

「わ、私、通報してもいいんですよ!」

「ごめんごめん。ストーカーされてる自覚があっても、ストーカー本人に『ストーカーですか?』って聞く人、始めて出会ったから面白くて、つい」

言われてみれば、そうかもしれない。ストーカーに『ストーカーですか?』と聞いて、本当にストーカーだとしたら、素直に『はい』というわけがないし、違ったらとしたら怪訝な顔をされる。どちらにしても私の苦手な目立つということにつながってしまうのに。

「僕の家の場所、君、知ってると思うんだけど?」

「は?」

知らない。あの男子の家なんて。私が家に行ったことがある男の子の家は・・・・?!

「何でまだ気が付かないかな〜?しょうがないから今から、僕の家の住所教えるよ」

私は自分が気がついてしまったことを振り返る。

私の最寄り駅とあの男子の最寄り駅が同じで、私が行ったことがある男の子の家の男の子。それでいて、同い年。そんなの、そんなの・・・・。

「はい。ここの住所に見覚えは?」

渡された紙に書かれていた住所は、私の家の隣町だった。

そう、私の初恋の人の家のある町だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る