第6話 痴漢

そんな日常が過ぎていたある日、その日は大雨で電車が混雑していた。

いつもと同じように朝のテストの勉強のために単語帳を見ながら電車に揺られていた時、おしりのあたりに何かが触れたのを感じた。その時の電車が満員の状況を考えて、私はリュックなどの手荷物が当たってしまったのだと軽く捉えた。たまたま手があててしまうことだって、私にもあったからだった。

異変に気がついたのは何かが触れている感覚がずっとある気がしたからだった。

あたってしまった、訳では無いと思った。

これは痴漢だな、と。

だけど、だからといって私はどうすることも出来なかった。周りには時間通りに学校や仕事に行くために早起きをして電車に乗っている人が沢山いる。それを、私一人が痴漢をされたくらいで狂わせてはいけない。そう、思ってしまった。

とはいえ、気分の良いものでないことは確かで、全く単語が覚えられなかった。途中からは気持ち悪くなってきてしまった。

それでも、電車内は満員で、沢山の人が降りるのも乗るのも苦労しているし、私は電車の乗口とは反対側の奥の方にいたので、更に降りにくかった。


体調が悪いのを我慢していても、流石に我慢の限界がやってきて、私は気を失いそうになった。

その時だ。

こんな声が私の横から聞こえてきたのは。

「痴漢されている人がいます!降ろして下さい!」

私はその声がする方を力なく見ると、そこには私の後ろに立つ男の手を掴んだあの男子がいた。

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