『ドア』の向こうは…。〜開けてはいけないドアの向こうから聞こえる声。開けられないドア。どうすればいい?〜

アキノナツ

『ドア』の向こうは…。

ドアの向こうから「開けてくれ」と声が聞こえてきます。

コツコツと小さくノック音も。

空耳?

そーっとドアに近づく。

深夜、丑三つ刻の時刻です。

シーンとした深夜らしい無音が耳を浸している。

息を潜めても自分の心臓の音がうるさく耳を占める。


「開けてくれ」


小さな声。厚いドアを越えてしっかり聞こえる。

ありえない。


「開けてくれ」


多分開ければ、終わりだ。


「開けてくれ」


コツコツ…


「ごめん。開けれない」

ドアに凭れ掛かるように座り込む。


「開けられないんだ」


正確には外からでも開けようと思えば開けれる。ちゃんと手順を踏んで、コックを引けばいい。

巧妙に隠された場所だ。

これを作った会社か管理会社しか知らないだろう。


あとコレを購入した者だけ。


そして、外の人間は知ってるはずなのだ。なのに、『開けてくれ』と言う。


もう人としての思考がないのか、慌てているのか。

声の調子から慌てた感じも切羽詰まった感じもない。


このドアを開けた時、ここは汚染される。


数時間前だったら、開けたかも知れない。

ラジオから流れてきた音声が希望を伝えてくれた。

徐々に外は回復しているらしい。


もう少し、あと少ししたら、ここも、浄化されて、自分は、自分たちは救われる…はずだ。


眠ってる弟を起き出さないように、ドアにマットを当てて、声が聞こえないようにする。

もしかして、開いてしまった時の事も考えないといけないだろうか。

もう一つのドアを閉める事も考えて、荷物を移動しようか。


迷ってる内に声が消えた。


もうすぐ夜明けだと時計が知らせてくれる。


もしかすると、外の世界はまともで自分達が異常な事になってるだけだろうか。


あの光景は嘘だったのだろうか。


ぶんぶんと頭を振る。


父が生きてるはずがない。

あれはお化けか何かだ。


きっと、あと少しだから頑張れと励ましにきてくれてるんだ。


そう思えば、気分が楽になる。




シェルターのドアは今日もノックされる。


「開けてくれ」


幻聴にしてはしっかりした存在に、ドア越しに安堵してる自分がいた。


「あと少ししたら開けるね。待っててね」


突然発生したガスは人々を眠られてしまった。何の情報を元にしたのか、両親は俺と弟にガスマスクを装着させた。

自分たちのマスクを手に頽れ、動かなくなった。


揺すって、父が漸く目を開いたが、シェルターを指差して寝てしまった。


シェルターに二人で入った。

両親を運ぶには、自分たちは非力だった。


ラジオから街中で眠る人々の話が伝えられていた。

人によって、ガスが効く効かないがあるようで、目覚めてる人でなんとが外に助けを求める事が出来たようだ。

救援が模索されているらしいが、ガスの分析に手間取っているようだ。

未知の病原体かも知れない。


彼の国では『ゾンビ対策本部』なる物が始動したとか。


日々情報は流れてくる。ゾンビの話は流れては来ない。


ラジオは外との唯一の繋がり。

情報は真偽はともかく生きる望みだ。


救援が決まっても、眠った人を回収する事は叶わず、そのまま放置されたらしい。

眠り続ける人々の放置は、衰弱死を見守るしか出来ないとラジオから悲痛な声で情報が読み上げ伝えられる。


動ける人のなんと少ない事か。


眠る街が再び起きる時、このドアが開くはずだ。


その時、どちらの世界が正常だったのか判明するだろう。自分が正常なのかどうなのか…。


それまで、俺は、『開けてくれ』と言う父と思われる声を聞き続ける。



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