闇夜

 戦禍に巻き込まれている国々の現状は決して、褒められるようなものではない。

 

「……」


 民主の熱狂と共に始まってしまったこの戦争による戦禍は甚大であった。

 本来、戦争とは一部の貴族と傭兵のみが行うものであったはずだったのだが、その特権は今や一般庶民にまで広がってしまった。

 敵兵に対して、敵国への憎悪と愛国心をたぎらせてしまった民衆が魔法という武器を手に襲い掛かったのだ。


 そのせいでこの世界初の市街戦が至るところで行われる結果となったのだ。

 つい先ほどまでは普通の仕事をしていた男たちが、子供のお世話をしていた母親が、既に隠居していた老人が。

 その悉くか敵兵と戦い、敵兵を殺し、自らの命を捧げたのである。

 戦争という特権を民衆が手にしてしまったが故の悲劇が繰り広げられていた。


「ひっどい惨状だな」


 そんな戦地へと降り立った僕は周りを見渡しながら声を漏らす。


「……本当に、ひどい。こんな戦場があるなんて。ここには、つい先ほどまで平和な民衆の生活が広がっていたはずなのに」


 そんな僕の言葉に同意するアレイスが声を振るわせながら口を開く。

 その表情は悲しみと絶望、そして怒りに染められている。


「……」


 それに対して、同じく共に来たゼノは比較的冷静な反応を見せている。

 ゼノは、きっと初めて見るであろう人の死体を前にして顔面を蒼白にさせている。

 だが、そこに主人公らしい正義感の炎は燃え広がっていない。

 少女となったことで信頼していた村の大人たちから向けられた人間の醜さ。それに触れて正義の炎も比較的に落ち着いているのかな?


「まぁ、僕たちは僕のお仕事をするだけだよ。魔族のお掃除をしっかりとしないとね」


 そんな二人を横目に僕は軽い声を上げる。


「ふんふんふーん」


 僕たち三人がやってきた街には色濃い戦禍の後が残りされている。

 崩れた街並みに今もなお残る炎の熱。

 そして、地面には大量の死体が残されているような街を、僕は鼻歌交じりに進んでいくのだった。

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