始まり

 アレイスが落ち込んでいる間。

 セレータから送られていた報告書を見つけ、その中身を読み込んでいた。


「……もう私に興味ないぃ。これでも結構付き合い長いし、少しくらい私のことを考えてくれてもいいのにぃ」


 そんな僕を見て、アレイスは不満げに口を開く……何だこいつ。急にデレてきたな。お前の前にいる男はお前の敵と言える悪人なのだが。


「私だってさぁ、この世界に理想があるってことはわかっているよ?すべての人が平等で、格差の無い社会を作るなんて無理だってことくらいわかっているし、犯罪者をゼロにすることだって無理だってことはわかっているよ」


 そんなことを思っている僕の方へと抱き着いてそのまま自身の体重を預けてくるアレイスは言葉を話していく。


「でもさ、理想はやっぱり理想なわけじゃん……ならさ、追いたいじゃん。理想を求め、動く。それが、この世界をよくすることであると私は思うんだよね」


「何?お前はこんなにベタベタくるようなキャラじゃなかったでしょ」


 そして、そのまま湿っぽいことを言い出すアレイスに僕は困惑しながら声をかける。


「別にぃー、私はすこぉーし、ルガンに近づいても良いかもっていうくらい好感度が回復しただけだよぉ?」


「急にデレすぎて怖いのだが。キャラ変わり過ぎやろ」


「……私だって、思ったよりも理想が遠いことを知ったんだよ」


「……さいですか」


 自分の隣でゾッとするほどに低い声で告げるアレイスの言葉に僕は頷く。

 どうやら彼女はかなり早めに現実を見てしまったらしい。


「でも、私は少しでも多くの人を助けたいの。その上で、一番手っ取り早いのが貴方を取り込むことでしょう?貴方は何が目的で戦争を引き起こしたの?お金?利権?何のための行動なの?」


 アレイスは僕と視界をしっかりと合わせながらこちらの


「んじゃ、戦争をそろそろ止めるか」


「えっ?急になんで?」


「いや、大国まで巻き込まれるのは嫌だからな」


 大国が動き出したら本格的な世界大戦になってしまう。

 これは避けたい。

 別に僕は戦争ビジネスで儲けたいのではなく、

 そもそも戦争ってそこまで儲かるわけじゃないし。中小国同士くらいの戦争だったら儲けられるけど、大国が乗り出すと世界経済への影響が尋常じゃないからね。


「僕の目的は魔族を倒すことだからね。中小国に巣喰らう魔族を倒せればそれだけで自分は満足かな」


「……んんっ???」

 

 僕の答えに、アレイスはただただ不思議そうな表情を浮かべるのだった。

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