手品

 飄々とした態度を崩そうとしない僕を前にするアレイスは頬を引き攣らせる。


「……どんな手品を加えたの?」


 だが、彼女はしっかりと一度深呼吸して自分の冷静さを保ってから僕へと言葉を言い放す。

 もうアレイスも僕との付き合いはない。

 嘘は言っていないけど、何もしていないなんてこともあり得ないことをしっかりと認識しているのだろう。


「いやぁー?


「やっているじゃない」


「うん」


 僕はしっかりと黒である。


「でも、犯罪はしていないな」


 それでも、僕は犯罪に抵触するようなことはしていない。


「元より限界だったからねっ!少しのスパイスを加えてやるだけでドカンよ」


 この世界の情勢と言えば、第一次世界大戦が起きた時以上のカオスである。

 第二次世界大戦ほどの確定的な必然感はなかったが、それでもこの世界で大規模な戦争が起こるのは半ば必然みたいなところだった。


「そ、そこをみんなで踏み込まないように頑張っていたのに……!」


「僕としては戦争が起こってくれた方が得だからね。カエサル家だぞ?」


「ぐぬぬ……いいわっ!何をしたのかだけ言いなさい!」


「ちょっと情報を流しただけだよ。オーハンでの時間に関してはただ、皇太子殿下が通るということを。他にも世界各国で自国への愛を強め、敵国への敵意を高めるような情報を吟遊詩人などに流して見たり、嘘っぱちの事件をでっちあげて噂として世間に広めてみたり。そんなところだ」


 後はあえて、敵に自分の物資を盗ませてみたりしただけ。


「誰も情報なんて見向きもしないから簡単だったよ」


 この世界は結局のところ最期は魔法で解決しよう!なんていう脳筋仕草がある。

 ゆえに、現代においては最も重要になったと言える情報戦の分野はこの世界だとおざなりであり、僕の独壇場だった。

 周りはもはや何も出来なかった。

 簡単かつスピーディーに詰みの状態にまで持っていくことが出来た。


「わ、私一人で、なんか……もう、止められないことにいるの?」


 そして、僕が本当に些細なことしかしていないということに気付いたアレイスは既にもう手遅れな状況を前に崩れ落ちるのだった。

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