答え

「はぁ……はぁ……はぁ……」


『はぁ……はぁ……はぁ……』


 実に大人げなく、醜いただの言い合いをしばらく続けていた後、僕と女神は共に息切れをしていた。

 

「……何をしているんだ、僕は」


 非常に醜い言い争いであった。

 その醜さがどれくらいであったかと言えば、


「ほ、本当に……あの二人は貴族様と女神様なのか?」


 ゼノへと僕が貴族であるとも、女神が本物の神様であるとも、疑わせてしまうほどであった。

 僕と女神の言い合いをしっかりと傍から聞いていたゼノの瞳に浮かんでいるのは呆れの感情である。


『いい、加減認めなさいよ……っ!』


「敬語はどうしたクソ女神」


『神様に対してクソなど告げる人間に見せる敬語なんてないわよ!』


 だが、僕と女神ここにまで来ても言い争いを辞めることはなかった。

 互いに言葉の応酬を続けていく。

 

「あぁぁぁぁ」


 そんな中で、僕は徒労感を口から漏らしながら、自分の座っている椅子の背もたれへと体重を預ける。


「馬鹿らしい……良いよ。やってやるよ。クソったれ」


 そして、僕は言葉を吐き捨てながら容認する。


『えっ……?』


「というか、毎日クソ女神の汚い声での音痴な歌を聞かされるなどと脅されてしまったら僕に出来ることなどもう何もないだろう。すべてを受け入れる以外に答えなどないではないか、卑怯者め」


 どれだけ言い争おうと、初手の段階で僕は負けているのだ。

 僕は女神に対して何も出来ず、女神は僕に対して干渉出来てしまうのだから。


『ちょっと待ってください。何ですか?その言い草は。私の声は美声ですし、歌もうまいです……っ』


「知るかっ!良いさ、働いてやる。女神からの報酬はたとえ、僕が将来立場も金も失っても、僕が好き勝手に生きれるように努力しろ。何も、他人の意思を無理やり変えさせろとまでは言わない。金くれるだけでいい。それで受けてやる」


 考え方を変えよう。

 前世で僕がしていた将来、働かなくて済むようにやっていた努力が、邪神をどうこうする努力に変わっただけの話である。


『それくらいであれば全然可能ですよ。むしろ、それだけでいいんですか?』:


「それだけで十分だ。金さえあればいい。後は自ずとついてくる」


 僕はクッキーの方に手を伸ばしながら女神の言葉に頷く。


「た、だ。条件がある」


 クッキーを噛み砕きながら、僕は告げる。


『……なんでしょう?』


「僕のやり方に文句を言うんじゃないぞ?」


 そして、そのまま僅かばかりに警戒を見せる女神へとこちらのやり方に文句を言うなよ、と釘を刺すのだった。

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