交渉

 完全拒絶。

 それが僕の対応である……働きたくないというのが僕の前世からの考えである。

 それを覆して何かをするなんて死んでも御免である……絶対に嫌だ。


「ふわぁ……」


 僕は大きくあくびを浮かべながら、天使と女神を拒絶する。


『どうしても、お願いできませんか……?世界の危機なのです!』


「僕の危機じゃないし」


「そんな!そんな、自分ばかりではなく……!」


「今もなおクッキー食べているお前が言うなよ」


「……あっ」


 僕の言葉を受け、そっと天使は視線を外す。


『何も、ただでは言いません。女神として、最大限用意出来る褒美も与えるつもりです。


「僕は生まれながらに己の欲するものはすべて手に入れているからな」


『ぐぬぬ……どうして、お聞きいただけないですか?』


「いやだね」


『この手ばかりは使いたくなかったのですが、仕方ありません。そこまで嫌であると抵抗するのなら、歌います』


「……はぁ?」


 僕は唐突な、脈絡のない女神の言葉に疑問の声を上げる。


『私は女神ですから、人間界への過度な干渉は出来ませんし、なおかつ貴方の本人の力が強すぎて天罰らしい天罰も落とせません。ですが、貴方に毎日歌を届けることは出来ますよ?』


「は、はぁぁぁぁ!?んだ、その脅しっ!?えぐすぎるだろっ!?」


 エゲツナイ脅迫であった。

 騒音トラブルなどというレベルではない。


『テコでも動かないと言うのなら嫌がらせです!絶対に動かしますっ!』


「女神として恥ずかしくないのかよっ!?」


『億年単位の処女で年増ババアの私が気にすることじゃありませんっ!』


「自分で言って恥ずかしくねぇのかよ!?女神として本気で最低の答えを出しているぞ!?今っ!」


 僕がこれまで聞いていた中で、一番情けない開き直りだった。

 こんな最低な言葉はもうないだろう。


『お、大人げないルガン様がいけないのですっ!世界の危機だというのにこれっぽちも強力してくれないルガン様がっ!』


「大人げないのはお前の方やろっ!?億年単位を生きる女神の交渉術がそんなちんけな開き直りによる脅しって恥ずかしくないのかっ!?それに、力を持っているからなんて理由で義務を押し付けられてたまるかっ!」


『ち、ちんけなとは何ですかっ!?最低な言葉じゃないですか!私たち女神だってそうですよ!生まれた時から職務が決定しています!』


「自分で言ったんだろうがっ!?」


『た、他人から言われるのと自分が言うのでは違うんですぅーっ!』


 僕と女神は、決して交渉とは思えない幼稚な罵り合いをしばらく続けているのだった。

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