事情
「……うぅ」
しっかりと精神性も女だな……こりゃ。
恥ずかしそうに頬を染めながら全裸で湯船に浸かっているゼノを横目で見ながら僕は彼女の状態を冷静に分析する。
「それで?何があったの?君」
既にゼノを男に戻すことを諦めつつある僕は彼女に対して疑問の声を上げる。
「……えっ?」
「ほれ、あんなところで死にかけていたり、男だったのに女になってしまったり……随分な様子だっただろう?何があった?」
「……わからない。なんでいきなり女になったのかなんて。でも、朝起きたら俺の身体は女になっていたんだ」
ゼノは静かに首を横に振りながら、ゆっくりと何が起きたのかを説明し始める。
「はじめは、だからと言って何も変わらないはずだったんだ……で、でも。明らかに女になってから周りの男たちの、私を見る目が変わったんだ。それに、村のことを考えたら女は子供を産むべきだって。お、俺は男なのに……男と性行為をして、子供を作るのなんて嫌だ……」
文明レベルとしては中世から近世。
立派な労働力であると共に、自分たちが年老いて働けなくなったときに支えてくれるよう国が補助してくれるような制度もない状態において、老後の自分を助けてくれる唯一の存在が己の子供である。
これ以上ないほどに優しい国である日本ではない異世界において、子供を作らないなんていう選択肢はありえない。
それが、たとえ男から女にいきなりなってしまったからと言っても例外ではない。
「わ、わかっていてはいるんだ……産まなきゃ、っていう理由はわかるんだけど。それでも、嫌で……衝動的に村から飛び出してあのざまさ」
ゼノは自嘲的な笑みを浮かべながら言葉を漏らす。
「そうか。なら、悪かったな」
そんなゼノの方に視線を送らぬまま、僕は彼女の頭をかなり強めに撫でながら口を開く。
「色々と複雑な時に一緒に風呂に入ってしまって。僕は出るから存分に温めれ」
「い、いや……」
簡潔に言葉を終え、立ち上がって風呂から出ようした僕の腕へとゼノは勢いよく抱き着いてくる。
「……どうした?」
僕が彼女の方に視線を送れば。
「……そ、んなに嫌、じゃないから……で、出来れば一緒に、入っていてほしい、な。わ、私を一人にしないでほしい……」
彼女は頬を赤らめながらも、僕の方へとしっかり視線を向けながら言葉を投げかけてくる。
「お、おぉう?」
そんなゼノの態度と言葉、自分への好感度の高さに困惑しながらも僕はとりあえず再び湯船の方へと浸かるのだった。
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