交渉決裂

「なんでよ!」


 一度、断りの言葉を入れた僕に対してアレイスが不満の声を上げる。


「そもそもとして、貴方は街が奴隷たちに荒されている現状に心を痛めて、街を再興させているのでしょう?であれば、まずは反乱鎮圧への協力。それを第一に優先するべきじゃないかしら?」


「我が家の価値は何であるか?」


「……えっ?」


 僕の疑問に対してアレイスは一度固まる。


「カエサル家とは何か、カエサル家の本懐とは何か。誰に何と言われようとも我らは武力であると断言する」


「そ、それは誰も否定するない事実でしょうね。でも、それが何なのかしら?」


「安売りはせん」


 僕はアレイスの言葉に対して雑な答えを返していく。


「執務能力など興味ない。適当に安売りしても構わぬ。だが、武力だけは例外である。そう簡単に我らは剣を振らない」


「……で、でも……貴方、前、特に意味もなく裏組織に喧嘩を売ってその武力を安売りしていたじゃない」


「……」


 僕はアレイスの言葉に押し黙る。


「図星かしら?」


「安売りはせんっ!」


 僕はアレイスの言葉に対して無理やり押し出していく。


「……何が、目的だろうか?」


 そんな中で、再びオストワ伯爵家の当主が口を開いて交渉の席に戻ってくる。


「ふむ」


「何故、君は今回の件に対して首を突っ込んできたのだろうか?君にも仕事があるだろう。そろそ」


「娯楽」


「……はっ?」


 貴族の交渉。

 その基礎は利益の融通にある。

 そのセオリー通り、オストワ伯爵家の当主は僕に対して、あの街へと僕が手を貸し続けること以上の見返りを与えることで退かせようとしたのだろう。

 だが残念。僕がここにいるのは娯楽以上の何者でもない。


「カエサル家とは、そういう家であろう」


 歴史上のカエサル家はクソオブクソである。

 気分で様々なことに首を突っ込んでは色々なものを荒すだけ荒して高笑いを浮かべている一族であり、クソなのは何も僕だけじゃない。

 それでも、カエサル家の人間は何故かめちゃくちゃ強いので他家もあまり文句を言えないので黙殺されているのだ。

 カエサル家はたち悪くても、最低限国の敵にはならないよう、最低限のラインは守るからな……僕も、最低限のラインは守って色々と遊ぶつもりである。

 だって、暇だし。

 人生の目的を生まれながらに達成してしまった僕は残念ながら非常に暇しているのである。面白いことには首を突っ込みたい。


「こ、これだから脳筋は嫌なのだっ!」


 僕の言葉を受け、オストワ伯爵家の当主は忌々しそうに言葉を吐き捨てるのだった。

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