交渉

「単刀直入に申し上げましょう。反乱軍に与するのはおやめください。いくら、貴方がカエサル家の嫡男であられたとしても、反乱軍に与するなど許されることではございません」


「与するなど、とんでもございません。あくまで僕がやっているのは街の保全にございます。剣奴たちに街が荒らされるなど……考えるだけで悲惨にございましょう?」


「保全などとよく口にできるものですね。それでは、ここ最近。貴方の名前で商人だけでなく多くの民衆までも呼び込んでいるのはどういうことでしょうか?」


「はて?僕は奴隷たちの手によって悲しくも、随分と寂れた街になってしまっていたようで、国の発展を願う一人の貴族として、回復に勤めただけですとも」


「回復、ですか」


「元に戻しただけですとも……まさか、長年ご立派な貴族として敏腕に力をオストワ伯爵閣下が統治しておられた街があのような寂れた姿であった、などということはありませんよね?若輩たる僕が軽く手を貸したくらいの街よりも。これよりもいっそう、剣奴たちによって寂れさせられた街を元の状態に戻せるよう邁進していく所存ですとも」


「……それは、後でもよろしいでしょう。今は剣奴の反乱鎮圧を優先すべきでしょう」


「はて?中にいるのは何ら統率もとれぬ奴隷たちにございます。自分は軍事の方には一切口出ししておりませぬ。どのような姿に街がなろうとも、そこを守るのが剣奴たちであるのなら……鎮圧は容易いでしょう?」


「ぐっ……」


 アレイスとオストワ伯爵家の当主の二人によって隣街の屋敷へと呼び出された僕はそこで、実に堂々たる態度で胸を張って詭弁を口から繰り返していた。

 貴族はプライドで見栄で生きる存在である。

 ここで僕に対して、元々街は寂れていた、剣奴の反乱の鎮圧に手こずっている。

 それを言うだけで僕の動きは止められるだけではなく、これまで足を引っ張ってきたからということで反乱鎮圧に協力するようこちらへと要請することも可能だろう。

 だが、プライドと見栄に生きる貴族たちは僕の言葉へと素直に頷けるはずがない。


「えぇい!ルガン!これは王家からの通達よ!反乱鎮圧に協力してちょうだい!」


 そんな中で。

 これまで黙っていたアレイスが口を開く。


「お断りします。街が一つ、奴隷たちに占拠された如きが国難であるとでも?我々貴族が動くときは国難の時のみ」


 そんな彼女の言葉に対しても僕は挑発百パーセントの言葉を添えながら、笑顔でお断りの言葉を告げるのだった。

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