女頭領

「ほーん」


 僕は自分の下に組み伏されている女性───赤い髪を持った彼女、ゲームにも出てきていたセレータへと視線を送る。

 あの荒くれ者三人組の上にいたのこいつだったのかよ。


「随分とレベルの高い幻想魔法だな」


「……ッ!?」


 僕がゲームに出てくるセレータのプロフィールを思い出しながら、先ほど急に現れた彼女のからくりに当たりをつける。

 だが、そんな僕のセリフを自分の切り札を一瞬で看破されたと判断したセレータは頬を引き攣らせる。


「は、はは。こりゃ、完敗かもね」


 そして、勝手に完敗宣言までしてしまう。


「……もう少し遊ぼうやぁ」


 僕は速攻で諦め始めたセレータを前に拍子抜けした表情を浮かべながら口を開き……って、あれ?そういえばこいつってばゲームでは主人公の敵として登場する敵キャラだったよな?

 これで僕が軽はずみにセレータと交流もつのヤバくないか?

 作中の立ち位置的に……敵ではあるけど、一応存在していないといけないキャラだからここで


「まぁ、一先ずはいいや」


 僕はセレータを完全に手放して彼女から数歩後ずさる。


「……何者だい?貴方」


 解放されたセレータは両手を上げて立ち上がりながら、僕へと疑問の声をぶつけてくる。


「聞いていないのか?ご貴族様だよ。ひれ伏せ?」


「……っ」


 僕の冗談に対して、真に受けたセレータがすぐさま跪き始める。


「いや、別に冗談だから顔を上げればいいよ。僕もある程度楽しめたからな」


「……私たちは命拾いしたと思って良いのかね?」


「別にその認識で良いよ。今更ここを壊滅させるつもりもない。そこまでするのは面倒だからな。興味もない」


「何とも、それは悪いお貴族様なことだ……それで?どうたい、アンタ。私たちと取引しないかい?」


 手を出すつもりはないと告げる僕に対して安堵の表情を浮かべるセレータはそのまま別の交渉に入り始める。

 先ほどまで殺し合いしていた相手によくそんな早く切り替えて商談に入れるな。


「普通に嫌だけど」


 僕はサクッとセレータの申し出を断る。

 ゲームの敵キャラだったこいつとは距離を置いておきたい。


「そうは言わずに、そこまで悪い話じゃないと思うよ?カエサル家、だろう?彼の家が欲する商品なら用意出来ると思うぜ。一応、私たちのところはグレーなところにガッツリ触れているけど、真っ黒けというまではいかないしな。何だったらこの私の身体もつけてやろうか?これでも未だに初物なんだぜ?私は」


「おーん、おーん、……おーん」


 僕は割と魅力的な案にしばしの間考え始めるのだった。

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