一矢

 流石に無茶ぶりであった。

 成人している男性三人組に対して、剣を持っていてもただの餓鬼が勝てるわけがない。

 ノアは無様に剣を振っては避けられ、反撃をくらい、幾度も叩かれ、地面を転がっていた。

 その姿は満身創痍の向こう側である。


「て、テメェッ!何時になったら諦めやがる!?」


 だがしかし。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 決して折れることなき彼の身体はどれだけ叩かれ、ボコボコにされようとも、不屈の精神だけで何とか、ふらふらになりながらも立ち上がる。

 その手には、未だ剣が握られている。


「……殺す、殺す、殺す」


「……ッ」


 顔も痛々しく腫れあがり、口から血を流しながら立ちあがるノアに三人組は表情を引き攣らせて後ずさる。


「こ、こいつ……殺さなきゃ止まらないんじゃ」


「馬鹿野郎!相手は貴族だぞ!?逆らえるわけないだろう!」


「ほら、囲むぞ!とりあえず叩く!」


「ごふっつ、がはっ」


 ふらふらになりながら立ち上がると共に三人へと囲まれて再びリンチにされるノアは無様に地面へと倒れ伏す。


「なんだ、なんだ……そのものか?お前の中にある意思は」


「……ごふっ」


 僕は恐らく視界もぼやけて何も見えなくなってきているであろうノアを焚きつけるかのように僕は声をかけていく。

 

「……」


 何か、一矢報いてくれると面白いんだけどなぁ……強い意思は素晴らしい。だが、意思だけあっても意味はない。

 足掻いた先で何かを掴める者でなければ。


「……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!!」


 そんな僕の期待へと答えるかのようにノアはその魂から搾り出すかのように声をあげて力強く腕を伸ばす。


「うぉっ!?」


 立ち上がることさえも出来なかった。

 だが、相手を強引に腕で掴んで転ばせ、自分のすぐ目の前にまで引きずり込む。


「アアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」


 そして、ノアは自分の手に持っていた剣で地面へと倒した男の首を斬り落とす。

 僕の授けた剣の切れ味は高く、どれだけ無様な一振りでも殺すことが出来た……一矢、報いたな。


「この餓鬼ッ!!!」


「あっ、馬鹿ッ!?」

 

 それを受けて動き出した一人に、そいつの動きから明確な殺意をくみ取ったもう一人が慌てて声を上げる。


「そこまででいいよ?随分と楽しめたわ」


 そんな中で、僕は動き出した一人がノアに向けて繰り出した蹴りを片手で受け止めながら声をかける。


「どぉー?初めて人を殺した感触は」


「別にぉ……がふっ、なんとも、ないぃ」


「へぇー、それなら良かった」


 僕は自分の言葉に力強い言葉で返してくるノアへと笑顔を向けるのだった。

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