誘惑

 アレイスが暴漢たちと格闘している間。


「な、なんだよ……」

 

 僕は地面で転がっている男子と言葉を交わしていた。


「お前、名は?家族はいるか?」


「……名はノアだ。家族は、妹が一人」


 ノア……ふぅーむ、ゲームには出てこなかった奴だな。

 それじゃあ、好きにしてもいいだろう。


「両親は?」


「……知らないよ」


「生活、出来ているか?」


「……そんなことを聞いて何になるんだ?」


 淡々と告げる僕の言葉に対してノアは忌々しそうに


「なぁに。簡単なことだよ。お前がこんなところを脱せるように金と武具をやろう。その後、冒険者にでもなればいい」


 冒険者。

 この世界に存在している独自のギルドであり、その形態はよくラノベやゲームに出てくるものとそっくりである。


「そ、そんなことしてお前に何の得があるっ!?」


「お前を僕の物にする」


「……は、はぁ!?そ、それは、俺をお前の下に組み伏せ、首輪をつけて連れまわすということか!?」


「あぁ、勘違いしなくていい。僕は別にお前への興味はない。僕は貴族だからね。己の領地に戻ればいくらでも金があるし、いくらでも好きに女を抱ける。お前のような餓鬼一人に興味などない」


「……っ、じゃあ、何だよ」


「投資だよ。お前の目が良い」


 僕は自分の目と目の前で転がっているノアの目を合わせる。


「その意思の強い目が良い。実に素晴らしい、僕が最も好きな目と言える」


「……そ、そうか」


「だからこその期待。お前が冒険者となり、実力者になることへと期待している。戦力はどれだけいても困らないからな。僕も暇じゃない。お前へと適当に金と武具を与えた後に何かするつもりは別にない。ただ、お前が強くなった時にその戦力を接収するだけだ」


「つ、つまり……俺に金と武具を与え、それでうまく行ったら何もかもを吸い取っていくというわけか」


「そういうことだ」


「……ッ、そんなの、受けるわけが」


「えぇ?それじゃあ、ここで地面に転がり続ける?妹と共に」


「うっ」


「安心しろよ。何も取って食おうというわけでも、お前を搾り尽くそうってわけじゃない。金には興味ないしな。欲すのはあくまで力。金までは搾り取らん。妹との生活を邪魔することはない」


「……ッ、……、ハッ。俺に断れるはずもなし、か。俺たちはどこまでも行っても、貴族たちの道化か」


「あぁ、当然だ。身分も、金も、権力も違う」


「……受けるよ。妹を、俺は食わせてやりたい」


「決まりだな」


 僕はノアの言葉に笑みを浮かべる。


「ほら。それじゃあ、奴隷契約だ。額を出せ」


「……わかったよ」


 僕は相手を自分へと隷属させる魔法を発動させ、ノアの額へと押し付けるのだった。

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