初撃

 互いに剣を向け合い、間合いを図る中で、先に動いたのは僕の方であった。


「……ふっ」


 一息で祖父との距離を詰めた僕は自分の手元にある剣を振り下ろす。

 

「ぬぉっ!?」


 あれだけのことを言っておきながらも僕のことをただの餓鬼と認識していた祖父は想像以上であろう僕の動きを前にして驚き、その動きが鈍る。

 祖父は僕の一撃を不格好に受け止めるので精いっぱいだった。


「そいっ!」


 そんな祖父に対して、僕は流れるよう動きで足の裏を見せる。


「ぐっのぉ!?」


 僕の渾身の横蹴りを腹に喰らった祖父はよろめきながら足を一歩、二歩と下げ、体の態勢もさらに崩れる。


「……」


 それを追撃するように僕は更に足を一歩踏み込んで距離を詰めていく。


「舐めるなっ!小童!」

 

 そして振り下ろした僕の剣を強引に受け止めた祖父はそのまま強引に、力任せに腕を動かして僕の態勢を無理やりに崩してくる。

 だが、そんな力任せの動き方をした祖父の態勢も同じように崩れている。


「「……」」


 互いに態勢が崩れる中で、僕と祖父は申し合わせたように互いに距離を取る。

 最悪だな……本来はここで決めておきたかった。

 未だ転生してから数か月ばかり、僕は最近になってようやく今の自分の体にしっくり来るようになったばかりなのだ。

 そんな僕が歴戦の猛者のような面をしている祖父に勝てる確立なんて万に一つもない。

 だからこそ……勝てるチャンスがあったのは一瞬。

 相手がまだ油断しているであろう最初の一当たりである必要があったというのに……。


「……?」


 いや、待てよ。

 そもそもとして僕はなんで祖父と戦っているんだ?祖父の目的はなんだ?

 僕は祖父の『来い』という一言と共に修練場に連れてこられたわけだが……その目的として一番しっくりくるのはこちらの実力を見たいからじゃないのか?

 と、なるとだ……ここで僕が勝つのはおいおい面倒なことになってしまうのではないだろうか?


「何を考え事をしているのかっ!」


「……ッ!?」


 だが、そんな僕の思考は自分に向けて離れた殺意のこもった祖父の一撃を前に中断され、己の身体は半ば反射的に地面を転がって祖父から離れてくれる。

 こ、このジジイ……ッ!?殺す気かよ!


「……あまり、老人を労わるなよ?」


「……すぅ」


 これは、本気で勝ちにいかないとまずいのでは?

 僕は早々に負けることを諦め、勝ちに行くことを狙う。下手に負けると絶対に痛い目にあう。


「……」


 魔法は使わないでおこう……今のところ向こうも魔法を使っていないのだ。

 こちらに合わせてくれている可能性が大いにあり、このまま魔法なしのルールでお願いしたい。

 こちらが先に不文律を破ることはない。


「すぅー」

 

 僕は息を吸って肺に酸素を送り、全身を活性化させていく。

 最後に僕が拳を握ったのはうっかりヤクザ共の利益を掠め取っちゃって彼らに目をつけられた時以来か?

 チャカやナイフを使う余裕もなく、そこらのごろつきに金を握らせて標的を襲わせるくらいで精いっぱいのヤクザどもと戦った時の感覚を取り戻せ。

 僕を囲んできた五人のごろつきをフルボッコにして、ヤクザと手打ちした時のことを……体を活性化させて、感覚を研ぎ澄ませ。


「……はぁー」


 僕は一切の油断なく木刀を構える。


「くくく……ようやくやる気になった……いや、違うか。わしを油断させる作戦は終わったということか?見ない構え方だが、筋は悪くない」


 僕は少しだけかじったことのある剣道の構えを取り、こちらと同じく異世界の流派と思われる剣術の構えを取る祖父と向き合うのだった。

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