祖父

「……なしてこんなことに?」

 

 僕が転生してこの体に憑依したからというものの、いつもの傲慢さと我儘さはそのままにも使用人たちには時折優しさを見せ、ハロー効果によるゲイン効果で自分の好感度を上げたり、騎士に模擬戦させてボコったり、魔法を練習したり、精力的に動いていた。


「何か言っただろうか?」


 それが祟ったのだろうか?


「……何でもないです」


 僕は今、何故か自分の祖父である男に目を付けられる結果となっていた。

 突然、己の祖父であるロドリゲス・カエサルから僕は半ば無理やりに修練場へと連れ込まれ、木刀を持たされたのだ。

 もう、意味が分からない……。


「我が子が異国の地の娘と婚姻し、貴様のようなヘタレが生まれたと知ったときには我が家の終焉を予見したものだが」

 

 木刀を手に、真顔のままで祖父は自分の母親のことを貶しながら言葉を話す。


「……うーむ」


 正直に言って、今の両親に僕はほとんど愛を持っていない。

 当然、今の自分を養っている者である故の感謝はあるが、別に家族としての愛を持ち合わせているわけではない。

 なので、母親が馬鹿にされようとも別にどうでもいいが、こういう時は親への愛を見せた方がいいだろう。


「ハッ。普段顔を見せない耄碌したジジイが今更僕の前に立って、何だって言うのだ?」

 

「……」


 僕は気丈を張り、自信満々な態度で言葉を話していく。


「僕の母を馬鹿にしたことを……後悔させてやるよ」


 修練場に詰めかけている騎士たち並びに使用人という多くのギャラリーがいる中で、僕は祖父に向かって木刀を突きつける。

 

「……今、誰にジジイ、と?」


「目の前にいる男だが?何だ?ジジイが当主やっていた頃は鏡も買えないほどに落ちぶれていたのか?ならば、僕の父に感謝しながら鏡を見てみると良い。そこには汚ねぇジジイの顔が映るだろうよ」


 怒りを見せる祖父に対して僕は全力で火をくべて、その怒りを更に燃え上がらせていく。


「くくく。よく言うではないか!だが、その侮辱の言葉が、この儂に、貴様の祖父であるこの儂に対する言葉であることは覚えておるな?」


 駄目だな、別に対して怒りを抱いちゃいない。

 こちらの実力と胆力を図るのが目的、一番面倒なパターンじゃないですか。


「ハッ。自分の母を馬鹿にされて静かに黙って伏すヘタレに貴族家の当主なんて務まるとでも?」

 

「かっかっか!よく言った!ならばよい!貴様を一端の貴族の倅と認めてやろう!そして、そこで直れ。貴様のその驕り、ここで叩き伏せ、所詮は異国の地より来た女の子だと認めてやる」


 別に異国の地の母になんて反感も抱いていないくせに、祖父は僕を怒らすためだけに侮辱の言葉を吐き、その手にある木刀を構える。


「耄碌したジジイの現在地点を教えてやるよ」


 そんなジジイの言葉に対して僕は侮蔑の言葉で返し、こちらも木刀を構える。

 なんでこんなことになっているんだ……というか、さっきのやり取り全部要らなかっただろ。

 互いに自分たちの挑発がまったく怒りに変換されなかった中で、僕と祖父は共に剣を向け合い、その初撃を放つタイミングを静かに待つのであった。

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