風呂
慌てて追いかけてきたレゾンと共に風呂場へとやってきた僕は自分の体を彼女に洗わせ、身をきれいにした後、湯船の方に浸かっていた。
「……ふぅむ」
「んっ」
レゾンの膝の上に座って風呂に浸かる僕は膝を組み、手をそっと己の顎にそえる。
僕がゲームの世界に転生したことはもう事実だろう。夢であることもない。
と、なるとだ……僕にどこまでもついて回るのが自分が主人公に殺される悪役であることだと言えるかもしれないが、そもそもこれはさほど問題にならない可能性の方が高いだろう。
「レゾンよ、お前は僕のことをどう思っている?」
僕はそこまで思考を回してから首をもち上げて視線を彼女の方に送る。
「嘘は許さぬ」
「私はルガン様をお慕いしていますよ?獣人として、その他からゴミのように扱われていたところを助けてくれたのはルガン様ですし……さ、昨日もその、わ、私を大事に抱いてくれま、したしぃ」
「……ふむ。では、その他の人間はどうか?」
「……う、ぬっ」
続く僕の言葉にレゾンは口を閉ざし、言いにくそうな表情を浮かべる。
「うむ。やはり、僕は嫌われているから」
「……はい、そう、ですね」
あっさりと嫌われていると口にする僕にレゾンは躊躇いながら頷く。
僕が乗り移る前のルガンは結構好き放題しており、その部下たちはかなり嫌われていた。
「……ふぅむ」
原点に立ち返ろう。
僕が異世界に来る前から、働きたくない。
家でゴロゴロしながら贅沢三昧出来るだけの富に囲まれ、好きなように女を抱き、自分の思うがままに色々なことを楽しみたいという願望を持っていた。
今の僕は上級貴族の子どもであり、それが容易に達成できるような状態だ。
「好き放題やるのは変わらんが、ある程度の譲歩も必要だな」
「……る、ルガン様!?」
「僕とて、成長するということだ。しばし、黙っていろ」
「しょ、承知しました」
まず、確かにルガンは主人公に殺される悪役だが、そもそもとしてゲームのシナリオに近づかなければ断罪されることもないだろう。
わざわざ更生して真面目に生きるまでもなく。
あくまで、ゲームのルガンは敵として主人公の前に立ったから殺されたのであって、無茶苦茶やっている貴族を倒す世直しの旅をしているわけではないのだ。
「……」
働かず、富に囲まれ、女を抱き、己の好きなように生きる。
これを僕は貴族であるがゆえに達成することは容易いだろう。
「……多分、当主になるのは僕だよね」
だが、そんな貴族としての生活を支えるのは平民が金を稼ぎ、そこから税として富を徴収するからである。
僕が好き放題にするには平民が富んで多くの税金を納めてもらう必要がある。
そして、それを僕が働かずに達成するとなると優秀な部下が必要だ。
「レゾン。もう喋っても良いぞ」
組んでいた足を元に戻した僕はレゾンに発言を許可する。
「る、ルガン様!あ、ある程度の譲歩とは何のことでしょうかぁ?」
「うむ……僕が当主になったときのことも考えてな。部下はうまく使うに限る。部下の掌握も必要だろう」
「……お、おぉ!この私!そんなルガン様をめいっぱい支えてみせます!」
「うむ。それではまずは風呂から出る。僕が風邪をひかぬよう優しく体を拭くのだ」
「はい!」
急にテンションが上がったレゾンを付き従わせ、僕は風呂から出ていくのだった。
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