記憶

 太陽が昇り始め、部屋を明るく照らす日光が差し込み始めていた頃。


「……ぁぁぁぁぁぁ、クソったれ」


 裸で寝っ転がって気持ちよさそうに寝ているレゾンの隣でゆっくりと僕は頭を抑えながら起き上がる。


「最悪の目覚めだ」


 レゾンとの諸事を終えて夜。

 意識を落として眠りについていた僕の頭の中に駆け巡ってきたのは今までルガンが生きてきた軌跡であり、その記憶と感情がたった一晩ですべて流れ込んできた。


「……あぁ」


 一夜で叩き込まれるような情報じゃないし、普通に死ぬかと思った。

 というか、記憶と共に感情まで流れ込んできたせいで一瞬だけ自分が自分じゃなくなる感覚まであった……まぁ、すべてをねじ伏せたけど。

 たかが十年生きただけの餓鬼の記憶と感情で僕に勝てるとは思わぬことだな。

 ルガンの人格が残っていたのかなどもう今になってはわからぬことだが。


「あぁぁぁぁぁ」


 とりあえずは夜に流れ込んできた記憶を整理し、自分の中にしっかりと落とし込み、これまで通りの自分を確立した僕はベッドから這い出て体を伸ばす。


「とりあえずは、良い朝だ」


 無駄に装飾の多い窓から外の様子を伺う僕は地球と変わらぬ太陽の輝きに目を細めながら言葉を漏らす。


「確か、こうだったか?」


 そして、僕は自分の中にある前世には確実になかった『何か』

 この世界並びにゲームでは魔力と呼ばれているものへと意識を傾けていく。


「……魔法とは、世界を変える力」


 ゲームにおいてはただレベルを上げてスキルツリーにポイントを振るだけで覚えられる魔法も、現実世界ではそういうわけにはいかない。

 たとえ、ゲームの世界を元にしていると思われる世界であってもレベルなんてものはないし、スキルツリーなんてものもない。


「世界の根幹を担う法則。それを理解し、なぞっていく」


 ゲームのスキルツリーもとい、この世界の魔法ツリー。

 この世界はありとあらゆる物理法則が魔力の上に成り立っている。

 そして、魔法とはその魔力によって成り立っている物理法則を自分が生まれ持った魔力で干渉して超常現象を起こす秘術。


「……こうか?」


 人如きが持ちうるちっぽけな魔力で巨大な世界の物理法則に干渉するなど本来無理ゲーである。

 だが、それでも元からある物理法則をの己の魔力でなぞり、ほんのわずかに逸らすことなら出来る。


「我が魔力よ、世界へと我が威を示し、水を顕現させよ」


 魔力を持つものであればなんとなく見えるこの世界の物理法則。

 どういう原理で、どういう論理かはわからないが、まるで魔法を使うものの為に用意されているからのような、魔法を発動させるための記述。

 ツリーのように下から上へと徐々に拡大していく魔法が為の物理法則、魔法ツリーと一般には呼ばれるものに従い、何の意味があるかは知らないけど唱えると魔法の発動を幇助してくれる詠唱を唱え、僕はこの場で魔法を発動させる。


「おぉ……謎だ」


 僕の魔力に従い、突き出していた手の平へと何もないところから水が集められ、そのまま何もない空中に浮かび上がる水球が顕現する。


「……飲める、のか?」


 一応飲料水を作り出す魔法を唱えたつもりだが……それでも、本当に飲めるのかどうしてイマイチ信じれない。


「うまいな」


 それでも、躊躇いながら水球の水を手で掬って、口に含んだ僕はその水の透明感に関心する。

 普通に美味しいものだった。


「っごく、っごく」


 寝起きで乾く喉を水球でしっかりと潤し終えた僕は水球をそのまま解除して消す。


「……」


 そのあと、今度は無詠唱で魔法を唱えて部屋の光をつけ、気持ちよさそうに眠っていた裸のレゾンを揺らす。


「起きて、起きて……レゾン」


「んっ……んん」


 それに対してレゾンは体を震わせ、何処か色っぽい声を上げながら前髪によって隠されてしまっているその瞳をゆっくりと開ける。


「……は、はっ!も、申し訳ありません!起きるのが遅れてしまい!」


 そして、抜群の寝起きですぐに覚醒してみせたレゾンは自分よりも先に僕が起きていることに焦り、慌て始める。


「まずは服を着なよ。僕は湯の方に向かうから」


 そんなレゾンに対して僕は部屋の中にあったメイド服を彼女の方に投げ、自分は部屋を出る扉の方へと向かっていく。


「あっ!?そ、その!しょ、少々お待ちをー!」


「追いかけてこい」


 部屋の中にレゾンを残し、色々な体液で汚れてしまった体のままで眠って汚くなってしまった自分の体を洗うべく、レゾン同様の素っ裸の状態のまま僕は記憶の中にある浴槽の方に向かっていくのだった。

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