目覚め

 暗い。

 僕はどこまでも暗い中で、何かに揺らめかれるような感覚へと自分の全身が包み込みこまれている。

 あの後。

 僕が、わざわざ包丁だけではなく自作の銃も持って武装していた通り魔に撃たれた後、どうなったのだろうか……。

 意識があるということは死んでないということだろうか。


「……っつ、まぶっし」


 そこまで思考を回したところ、いきなり自分の目へと強い光が飛び込んできた僕は思わず反射的に自分の目を閉じてしまう。

 もう、ちょっと目覚めるまでに瞬きとかあるだろ、なんでいきなり光なんだ……!


「いや、どこだよ。ここ」


 そして、再び僕が目を空けると、その視界に飛び込んできたのは全く知らない天井だった。


「……知らない天井だ」

  

 半ばお決まりとも言えるセリフを遅らせながら呟くと共にぼーっと天井を眺める。

 巨大なシャンデラが垂れ下がっている金を基調として作られた天井なんて知らないぞ……僕にこんな成金趣味はないし、成金趣味に満ち溢れた病院もないはずだ。


「けが人にしていい仕打ちじゃなくない?これ」


 そして、床に転がされていた僕はゆっくりと体を起こす。


「……痛くないし、何だこれは」

 

 僕が起き上がるとその予想に関して一切の痛みが走ることはなかった。

 そして、起き上がったことでようやく僕は自分の身体がおかしいことに気付く。

 明らかに視線が低いし、自分が着ている服も意識を失う直前に羽織っていた軽いパーカー姿ではなく見たこともないやたら装飾の多い服へと変わっている。


「どう、なっているの……?」


 困惑しながら僕は自分が寝ころばされていた部屋を見渡す。

 すると、やけに広くて高そうなものが多い部屋の壁に備え付けられていた鏡を発見する……自分がどうなっているのか、鏡に立てばわかるか。

 僕は少しだけ躊躇いながらも鏡の前に立ち、そこに映る自分の体を確認する。


「誰やねん」


 黒髪黒目という標準的な日本人だった僕の姿は何処へやら。

 鏡に映ったのは綺麗な白髪に透き通るような青い瞳を持ったあどけなさを持ちながらもどこか不気味に思えてくる透明感を持った美少年だった。

 年齢としては十歳に満たないかどうか、ということだろうか。


「……すぅ」


 いや、マジで誰だよ。

 そう思った僕であるが、すぐさまこの少年の正体について自分で思い至る。

 こいつ……僕が瑞稀と一緒にやったゲームである『エルピスの伝説』に登場する悪役、ルガン・カエサルじゃないか?

 作中で最強の一族と名高いカエサル辺境伯家の中でも、突然変異とされる圧倒的な才格を持ったチートキャラであり、主人公の前に幾度も立ちふさがった彼とその姿がそっくりなんだが。

 

 瑞稀が最推しだと連呼し、僕へと幾度もこのキャラが書かれた絵を見せてきたからなんとなく覚えているぞ。

 最終的には瑞稀の強い押しにも負けてこいつの巨大なフィギュアを買っていたりもしていたし、流石に覚えている。


「いや、待てよ……?こいつ、最終的に死ななかったか?」

 

 僕は瑞稀に激押しされてプレイしただけであまり真面目に取り組んでいなかったから、あまり詳しいことは覚えていないが、確かルガンは最終的に主人公の手によって断罪される形でその首を叩き斬られたのではなかったか?

 と、なると……だ。僕は最終的に死ぬ運命にある悪役へと転生したということか?うーむ、うーむ。なるほどぉ。


「おーん……とりま夢か?」


 僕はとりあえず自分のほっぺへと手を当て、思いっきり引っ張るのだった。

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