第3話 双子キャラってニコイチだからお得な気がするよね。


 そうして俺は甘美院杏子の専属パティシエールになってしまったのだが…。


 やばい。快適すぎる。


「よし、いい作品が出来た」


 俺は机の上に置いたミルフィーユをスマホで撮影しながら、満足する。

 周りを見ると、余りにも綺麗に整頓されており、超高級なツールで埋め尽くされた厨房が目を楽しませてくれる。

 桃山製菓の厨房は職人たちでごったがえしており、基本的にはたまにしか厨房のモノには触れないから、甘美院グループビルの中にあるこの厨房は余りにも快適すぎた。

 というか桃山製菓は廊下に職人がたまに社中泊するほどブラックなのを考えれば当然なのかもしれない。

 ここは修行のためにトレーニングルームも使わせて貰えるし、おかげで現在は神の手の修行も出来ている。


 撮影も終わったところで、ミルフィーユを持って厨房を出ていき、甘美院……杏子さんのいる庭園に向かう。


 そうそう。

 杏子さんの専属パティシエになるにあたって、本当にいろんなことが起きた。

 まず、学校を転校することになり、札束でビンタされた親に人身売買よろしく売りとばされた。

 おかげで今は甘美院グループの所有するホテルのスウィートルームで意外と快適な生活を送っている。

 たまに山で大自然の外気に触れながら魔力を感じる修行にも勤しむことが出来るため、すこぶる体調が良い。


「いや違う違う!俺はモモに告白するためにパティシエになったんだ!この程度で篭絡されるものか!」


 誰に言い訳してんだかな。

 中庭に続く扉を開けると、ギンギラにまぶしい銀髪のお嬢様が紅茶を飲んでいた。


「今日もありがとうございますわシュー様」


 笑顔で出迎えてくれる杏子さん。

 うん。ものすごい美人だな。

 あれが、スイーツバイクイーンになると、ネタばっかりの技使ってると思うと、やっぱ変な人だなって思ってしまう。


「ミルフィーユですよ」

「わぁーーー!おいしそうですわーーーー!」


 ――――どかーーーーーーーーん!!!!


 机の上にミルフィーユを置いた瞬間、中庭の扉が爆発する。


「な、なんだぁ!?!?」


 振り返ると、そこには何やら色鮮やかな髪色をしたツインテの双子が居た。

 杏子さんの目がキッと鋭くなる。


「殴りこみ失礼しまーーす☆」

「し、失礼します……」

「随分とド派手なご登場でいらっしゃいますわねぇ?」

「まーね☆」


 眩いピンクブロンドの髪色を持つ双子の片方がダブルピースをしながら答えてくる。

 もう片方の子はおどおどとしながらも「美味しそうなミルフィーユ……」と杏子さんのことなど目にもくれていない。


「貴方がミスターカシドー? アタシ柊うい☆ ミルフィーユもらうねー」

「柊あい……スイーツバイクイーンを……所望、します…」

「柊うい、柊あい。その挑戦受けて立ちますわ。セバスチャン」


 杏子さんがセバスさんのことを呼ぶと「かしこまりました」と突然俺の横に現れ、ミルフィーユの皿にカバーをかぶせた。


「佐藤様。スイーツバイクイーンの宣言をお願いします」


 セバスさんがそう言ってくる。

 俺が言う意味とは?


「スイーツバイクイーン」


 宣言すると、突然中庭で力同士が衝突し、爆発が起きた。

 見ると、双子の突進攻撃を、杏子さんが扇子で受け止めていた。


「へぇーーーー☆ 器用なものだね☆」

「まぁ随分軽い攻撃ですわね?歯ごたえがありそうにないですわぁ」

「言い……ますね…」


 二人の攻撃を器用にいなしながら、縦横無尽に庭園中を飛び回っていく。

 幾千もの打撃と斬撃を生み出しながらその軌跡を作り上げていく。

 しびれをきらした杏子さんが、扇子を大きく振りかぶる。


「ふっ」


 まるで扇子をクナイのようにして投げて、明るい方の子を狙う。


「なにそれ☆」


 うざったいと言わんばかりに平手でぱぁんと弾きとばすと、杏子さんがにやりと笑った。


「お嬢様忍法、避雷針」


 そう言うと、突如として杏子さんの姿が目の前から消える。

 どこに行ったのか、双子が見回すと、突如として杏子さんが柊あいの目の前に現れた。


「なっ……!?」


 柊あいに強烈な蹴りをかまして、その小さな体を吹き飛ばしていく。

 空中から地面に叩きつけられようとしたところを、寸前のところで柊あいが受け止めた。


「うい……大丈夫?」

「ありがとうあいちゃん☆」


 二人が態勢を整えると同時に、杏子さんが扇子で口元を隠して降り立つ。


「やはり二体一というのは面倒ですわぁ」


 くぁ……と欠伸をしながらつまらなそうに言う杏子さんは、余裕の態度を崩さない。

 双子は苦虫をかみつぶしたような顔をしながら対峙していた。


「双子パワーで一気に決めよう☆」

「これ以上……いいように……させない、です」

「上等」


 三人の気がドカンと一層膨れ上がる。

 その気のぶつかりあいで気流が生じ、突風が頬をなでた。


 先に動いたのは双子だった。

 双子はぐりっと体をねじると、その体を絡ませながら回転し杏子さんに突進してくる。

 ―――これは、どう見ても


「「「牙〇牙!!!!」」」


 なんかどっかで見たことあるような技を見て、杏子さんはにやりと笑った。


「……それでは二体二と洒落こみましょうか」


 杏子さんの気が、だんだんと鮮明に浮かび上がる。

 まるでそれが一つの生命を感じさせるほどの大きさと、人の形を伴って現れた。


「スターセバスチャン」


 杏子さんの背後に、もう一人人影が現れた。

 それは、どうみても執事のセバスチャンさんにしか見えない。

 え、いやなんで?セバスチャンさん本人はまだ俺の横にいるぞ!?

 なんか二人に増えた!?


 現れたスターセバスチャンが拳を構える。


『ではではではではではではではではではでは!!!!!!!』


 双子の突進に大して、強烈なラッシュを、スターセバスチャンが繰り出す。

 見た目はもはや集英社肝いり漫画の様相を呈していた。


 二つの力がぶつかりあい、渦を成す。


 そして、大きな嵐が終わると、一人だけ、その場に立っていた。

 甘美院杏子が、ただ一人、勝者として。


「こんなものですわね」


 お召し物の汚れを手で払いながら、双子を見下ろす。

 双子は悔しそうに涙を浮かべながら、倒れ伏していた。


「く、くそぅ……」

「強い、です……」

「その意気や良しですわ。ただ貴方達よりもわたくしが上だっただけのこと、気に病む必要はございませんわ」


 そういって、セバスチャンさんからミルフィーユを受け取って、手づかみで頬張る。

 喫食タイムだ。


 ―――っと、食べた甘美院杏子が何故か、顔にパンチを食らったかのようにのけぞった。


「!?!?!?」


 食べている本人も、何が起こったのか分かっていない。

 これは……リアクションか!?


 俺が驚いていると、更に甘美院杏子の顔が鋭い痛みをゆっくりと味わうかのように吹き飛んだ。


「こ、これは……断層の旨味が、段階的に襲い掛かってくる……まるで、パンチを重ねるように!?」


 ミルフィーユの感想を、殴られたような顔でそれでもなお解説してくる。

 双子と戦っている時よりも、明らかに俺のミルフィーユを食べてる時のほうがダメージ食らってないか?


「まるで、まるでこんなの……」


 顎から突き上げられたかのように吹き飛びながら、甘美院杏子は語る。


「味の釘パンチですわぁ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」


 ごしゃっ!


 と、地面に叩きつけながら、ミルフィーユの味で、甘美院杏子が倒れ伏した。

 何が起こったのかわからずにいると、セバスチャンさんが俺の腕をあげてきた。


「勝者、佐藤修様ーーー」


 いやなんでやねん。


 ツッコんでいると、杏子さんが立ち上がりながら、ふっと笑った。


「それなら、仕方がありませんわね。セバスチャン。お茶会の準備をなさい」

「かしこまりました」


 そういうと、セバスチャンさんの姿がまるで煙のように消え去る。

 何が起こっているのかわからずに居ると、杏子さんが「シュー様」と声をかけてきた。


「マカロンを作っていただいてもよろしくて?」

「え?いいのか?またスイーツバイクイーンが始まるんじゃ……」

「いいえ。このスイーツバイクイーンに関しては売られたから買いましたし、確かにわたくしが勝ちましたけれど……」


 首を振ると、双子の方を見る。

 とても慈愛に満ちた表情をしていた。


「こんなに可愛いお嬢様が来てくださったのですから、無下に追い返すなど、淑女として廃りますわ」


 その言葉に、確かに暖かいものを感じる。

 背後で双子が元気に立ち上がってきた。


「え!?いいの!?☆」

「……おねえさま、やさしい……」

「ふふふ、さて、まずは手を綺麗になさいましょうね」


 そういって、庭から立ち上がってお手洗いのほうに行く三人を見送る。



 一人残った俺は、ひとりでに祈りをささげた。




 ―――モモ助けて。俺、甘美院杏子あの人好きになっちゃう!!!!




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