第15話 微熱
雨の音が聞こえる。
夕方過ぎから出た熱はじくじくと体を蝕み、火照りのせいで布団を蹴っ飛ばしては寒さに震えて手繰り寄せるのを繰り返していた。
僅かに微睡んでは目を覚まし、怠さと痛みと圧迫感から何度も寝返りを打つ。
どのくらい熱が出ているのか。
すっかり温くなったタオルを裏返して額に乗せる。一瞬だけひんやりとするも、ひと呼吸する間にそれは温びてしまった。
肩が痛い。
肘も痛い。
関節の骨と骨が離れていくような、何とも言い難い不快感と怠さが襲う。
眠っているのか、いないのか、微睡んでいるような感覚もあるのに、思い起こすのは君のことばかりだ。
今にも部屋のドアを開けて、君が顔を出す。そんな気持ちになる。
そんなこと、ある訳がないのに。
ふわりと風が頬を撫でた。
君の手がそっと僕を撫でてくれているような錯覚に陥る。
『二度目なんてもの、ないのよ』
悲しそうに言った君の横顔をよく覚えている。
困惑して、それでも突っぱねることなく、僕を優しく諭した。
どうしてあんな風に、君の気持ちも考えずに言ってしまったんだろう。
僕はいつも、君を困らせてばかりだった。謝りたいことがたくさんあって、後悔がとてもたくさんある。
熱のせいだ。きっと。
君にしてしまったことを思い出すと消えてしまいたいぐらい後悔ばかりなのに、今とても、君に会いたい。
会いたくて。
恋しくて。
涙が零れた。
半分微睡んだ僕の傍で、君が笑って歌ってる。
じくじくと蝕む熱が見せる幻だ。
眠るまで、この手を握っていて欲しい。流れた涙を拭って、僕の頭を撫でていて欲しい。
『何にも心配いらないよ』
君の軽やかな声がする。
幻でも夢でも構わない。
ただ、君に会いたい。
会って抱きしめて、君が好きだと伝えたい。愛してると。
雨の音がする。
このまま水底まで沈んでしまいたかった。
じくじくと。
熱が僕を蝕む。
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