お飾りの妻、と言われたので一発殴ることにしました

第2話

　その瞬間、私は自分が何か失敗を犯したことを理解した。

「そ、その、私は決して旦那様とそんな関係ではありません！　ただ、私は恩返しで旦那様の側にいるだけでして……！」

　本当にあの馬鹿は、どれだけ私の悪い噂を使用人に知らせたんだ？

　絶対いつか仕返しはしてやる、そう思いながらも私はあからさまに慌ててみせる。

「ご、ごめんなさい！　勘違いさせちゃったわね。純粋に疑問だっただけで、貴女を責める気なんて少しもないのよ！」

「……え？」

　そう謝りながら、私はあえて侍女、マリーを抱きしめて見せた。

　突然のことにマリーは驚きながら、それでも徐々に平静心を取り戻していく。

　それを確認して、私はマリーから体を離して笑いかけた。

「もう平気？」

「は、はい……」

　私の問いかけにゆっくりと頷いた後、侍女は顔を真っ青にして頭を下げた。

「わ、私はなんてことを……！　申し訳ありません、奥様！」

「いいのよ、気にしないで」

　そういいながら、私は頭をなでながらマリーに告げる。

「私、貴女みたいな妹がほしかったのよね」

「え、その？」

「ああ、ごめんなさい」

　そういって手を離した私は、マリーがもう完全に平静さを取り戻していることを確認し、にっこりと微笑みかけた。

「それじゃ、支度の手伝いお願いしていいかしら？」

「は、はい！　任せてください！」

「それとこれは支度が終わってからでいいんだけど」

　そこで、私は押さえ切れぬ怒りを滲ませながら告げる。

「旦那様と少しお話があるんだけど、どこにいるか知らないかしら？」

　その瞬間、ようやく落ち着いていたマリーの表情は再度固まることとなった……。

◇◆◇

　まあ、当然というか、カズタリアはもう屋敷にはいなかった。

　というのも、この侯爵家は魔境とよばれる忌み嫌われた土地を押さえるためにできた家だ。

　その当主であるカズタリアは、多忙で自ら魔境に赴き、時々魔境から姿を現す魔物を狩っている。

　そしてその多忙さは、契約とはいえ、結婚をした今日でさえかわることはなかった。

「まあ、マリーへの風評被害の報いをつけるのは、また後日でいいでしょう」

　そのことを聞いて、私が向かっているのは当主の次に実権を持つ人間のもとへと向かっていた。

　その人物は、普段多忙であるカズタリアの代わりに領内を納めている人間。

　ちょうどその人物と私がばったりと出会ったのは、その人物の書斎に向かう道中だった。

「これは奥様。ちょうど私の方から探していたところでした」

　きっちりと整えられた白髪の、初老の執事服を身に纏った男性。

　彼こそが私の探していた侯爵家家宰、マクルフォンだった。