第3話
それから私とマクルフォンは万が一にも使用人に聞かれる心配のない部屋へと移動した。
マクルフォンが深々と頭を下げたのは、その直後だった。
「奥様、この度は旦那様のわがままにつきあっていただき、本当にありがとうございます!」
その瞬間、私は理解する。
この人は、私たちの契約結婚についてしっていると。
私は慌てながら、口を開く。
「気にしないでください! あくまでこれは、私にもメリットがあったが故の契約結婚なのですから!」
「そういっていただけると安心します。……部屋に向かう旦那様をみる限り、奥様が激怒して実家に帰られてもおかしくないと思っておりましたから」
「まあ……」
その言葉には、さすがの私もなにも言えなかった。
あの態度であれば、誰だって怒る。
私だって殴ったし。
といっても、そんなことを素直に言えるわけもなく、私は本題を話始めることにした。
「契約について理解しているなら、一つお願いがあって」
「ふむ? どうしましたか?」
「できれば、私と旦那様の部屋を分けてほしいんです」
「ほう」
その頼みが想定外だったのか、マクルフォンは目をみはる。
まあ、普通は結婚したら部屋を同じにするのが貴族の常識だ。
私だって、それを知ってるし覚悟はしてきたが。
「私と同室だと、旦那様も安らげないと思いまして」
夜寝てる最中、カズタリアが何度も身じろぎしたことに私は気づいていた。
おそらく、カズタリアは女性から襲われた経験もあるのだろう。
魔導師として名高い侯爵家当主である以上、襲われても逃げ出すのはたやすいはずだ。
とはいえ、それと安心できるかはまた別物だ。
「急な結婚に私が頼んだと言えば、誰も疑いませんし、旦那様も睡眠不足は、戦いの最中に何かあったら怖いですし」
「……そうですね。分かりました。お気遣いありがとうございます」
「いえ、実際私も個室があるとなんだかんだありがたいですから!」
なんだか、見当違いに評価があがっている気がして、私は居心地悪げに身じろぎする。
どちらかというと、私が個室がほしいだけだったりするのだが……。
そんなことも知る由もなく、にっこり笑いながらマクルフォンは尋ねてくる。
「それでは当面の間は奥様には客室を用意させていただきますね。直ぐに使用人達に手配させて、奥様の部屋を用意させていただきます」
「お願いします。そう、それとあと」
「はい。どうしました?」
「女主人として、私がやらないといけない仕事を教えてもらっていいでしょうか?」
「……え?」
マクルフォンの表情が変化したのは、その瞬間のことだった。
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