第1話
「それにしても我ながら、思いつきでとんだことを言ったものね……」
契約結婚が達成された翌朝。
私はベッドの上に転がりながら、そうつぶやいていた。
この部屋にカズタリアの姿はない。
さすがに契約結婚が使用人に知られるのはまずいという判断のもと、一応同じ部屋で寝るだけは寝たのだが、朝になるとカズタリアはさっさと逃げるように出て行った。
もちろんその間、私とカズタリアの間には何もなかった。
朝起きた後、露骨に嫌そうな顔で見られたぐらいだけ。
そのお礼に寝たふりをしながら、蹴っておいたが。
「……こっちだって、恥ずかしさがない訳じゃないのに、あのデリカシー皆無男が」
僅かに顔を赤らめながら、私はそうつぶやく。
「まあでも、色々とやらないといけないことが出来たわね」
そうつぶやいた私は、窓の外へと目をやる。
目がまぶしくなってくる程照らされた外を見れば、もうそろそろ使用人達も動き出す時間だ。
「奥様、大丈夫でしょうか?」
扉がノックされたのは、ちょうど私がそう思っていた時だった。
「どうそ」
「失礼します」
私が許可を出すと現れたのは、年若いショートカットの侍女だった。
まさかこんな若い女性の使用人がいると思わずびっくりした私に、彼女はお辞儀して告げる。
「そ、そ、その、マリーともうします。よ、よろしくお願いします」
……おいあの馬鹿、私をどんな紹介しやがった。
明らかにおびえている彼女を見て、私の額に青筋が立つ。
とはいえ、それを明らかに見せたらさらにおびえさせるだけだ。
そう私は、父の商会を手伝う中で身につけた、愛想笑いを発動した。
「驚かせちゃったかしら? ごめんなさいね。旦那様が女嫌いだって知っていたから、若い侍女で驚いただけなの」
「……っ!」
しかし、そう私が告げた瞬間、目に見えて侍女の顔色が悪くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます