侯爵家の女主人

プロローグ

「皆を散々振り回しておいて申し訳ないが、この度私はリズリアと結婚することとなった。これから彼女には、侯爵家の女主人として動いてもらうことになる」


 その報告がされたのは、朝の集会でのことだった。

 旦那様、カズタリア様が自ら現れ、されたそのご報告に、私は少しの間呆然と立ち尽くすことになった。


 結婚? あの旦那様が?


 直ぐにこの結婚は破談となるかもしれない。

 直前まで、そう旦那様が口にしていたからこそなおさら、私はその報告を信じることができなかった。

 どうして、なぜ?

 そんな疑問が私の脳裏をよぎる中、旦那様が苦笑して告げる。


「まあ、何だ。かなり性格に難のある人間だが、皆よろしく頼む」


 私の中の疑問が氷解したのはその瞬間、だった。


「そういうことなのね……」


 そうつぶやいた私の口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。


「あの女狐、絶対に許さないわよ」


 その時には私は完全に理解していた。

 旦那様は何か弱みを握られて、結婚することになっているのだと。

 そう。そうでなくては明らかにおかしいのだ。

 何せ、あれだけ旦那様は女性を忌み嫌っているのだから。


 ……私のような一部の女性をのぞいて。


「旦那様、私が助けてあげますからね」


 弱みを握って、悦に浸っているだろう女の顔を思い浮かべながら、私はそうつぶやく。

 私の口元には、隠すきもない凄惨な笑みが浮かんでいた。

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