第3話

 瞬間、カズタリアの表情が唖然としたものとなる。

 しかし、そんなことはもう関係はなかった。

 私は固めた拳を振りかぶり、全力で目の前のナルシストを殴り飛ばした。


「がっ!」


 苦悶の声を上げたカズタリアは、そのまま一回転して廊下の壁まで飛んでいく。

 それを確認して、私は心からの歓声をあげた。


「あー! すっきりしたぁ!」


 今までためこんでいた分、発散したときの感覚はいっそう快感だった。

 全力でガッツポーズする私に対し、廊下の方からカズタリアの声が響く。


「うっ! ごほっごほ! お前、話す許可を取って殴るとかどういう思考している……!」


「うるさいわよ、ナルシスト」


「な、ナルシスト!?」


 なんだか呆然とした声が聞こえるが無視して私は告げる。


「当たり前でしょうが。初夜すっぽかしかけて一番に何の話してるのよ、ナルシスト」


「お前、それで俺を呼ぶつもりか……!」


「嫌なら自分を見直しなさい。いきなりあんたのもて自慢を聞かされた私の気持ちとかね。あんたの顔の良さとか、私どうでもいいんだけど?」


 そこまで言うと、なぜかナルシストもとい、カズタリアは黙りきっていた。

 そんな姿を鼻で笑って、私は告げる。


「とりあえず謝罪は……?」


「……悪かった。仕事が立て込んでて、遅れた」


「まあ、知らせなかったところを見ると、それで離婚してくれたらラッキーとでも思っていたてことかしら?」


 そういうと、カズタリアは無言で顔をそらす。

 その様子を見て、ため息をついてから私はベッドに座り直すことにする。


「いや、もういっか」


 しかしその途中で思い直した私は、ベッドの上で肘をついて横たわることにした。


「お前……」


「あによ」


「……いや、いい」


 途中、カズタリアが信じられないようなものを見る目で見てきたが、私はにらみながら問いかけると顔をそらした。

 そっちの方が散々なことをしてきたのだ、今更文句を言われるつもりなど私にはない。


「まあ、これまでの話をまとめるととあんたとしては、私を愛する気はないのよね?」


「……ああ」


 私の問いかけに、カズタリアは躊躇しつつも、頷く。

 その表情には、控えめではあったが隠しきれない嫌悪感が滲んでいた。


「どうして俺が女という低俗な存在と添い遂げなければならない」


「あんた男色系の人間?」


「いや、性的対象は異性だ。といっても、もう最近は嫌悪感の方が上回るがな」


「ふーん」


 これだけのイケメンはイケメンで苦労があるものだと、整った顔を見ながら私は思う。

 そうしていると、その視線に気づいたカズタリアが薄ら笑いを浮かべ告げた。


「何だ? 文句があるなら直ぐに父親にでも泣きつけ。もとから上手くいくいくわけはないとはいってある」


「行かないわよ。あの禿おやじには、あとで鬘焼きの刑に処すけど」


「禿おやじ!?」


 その時になって私は寝転がっていた状態から体を起こす。

 呆然としているカズタリアを無視し、にやりと笑って口を開いた。


「それよりもあんた、私とひとつ協力関係を結ばない? ──契約結婚という形で」

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