第97話 本当のマギ先生
口から後頭部にかけてを焔丸で貫かれ。
ドウ、と仰向けに倒れて。
グレイオールドが動かなくなった。
同時に、召喚主が死んだせいで。
ゴーゴンとヴォーパルラビットが消えていく。
身体が粒子に分解し、消滅する。
あとには魔晶石も残らない。
「マギ先生……?」
僕の真の姿を見せたことはこれまで1回も無かったから。
だいぶ僕の弟子はショックを受けているみたいだ。
……やっぱ、バツが悪いなぁ。
僕は弟子が性の対象ではないのだから、別に明かす必要ないだろ。
明かしたら、余計な心配ごと「もしかしたら襲われるかも」を増やすだけ、と思ったからずっと黙っていたんだけど。
「先生、魔法語詠唱なしでその姿になったってことは……」
「そうだよ。僕は男だよ。わざと言わなかったんだ。ごめんね」
30代黒髪のヒュームの男。
これが僕の正体であると気づいた根拠をしっかり挙げてきたところに喜びを感じたけど。
申し訳なさもあって。
あと、弟子の頭を撫でることも気軽にはできなくなるな。
そこに一抹の寂しさを感じた。
だけど。
「いいえ!」
弟子は頭を振って僕の言葉を否定して
「謝らないで下さい! 先生がいてくれたから、私は魔法使いになれたんです!」
私、先生に拾ってもらうまで男性には酷い目にしか遭わされてなかった。
父親が賭け事で作った借金で朝から晩まで働かされて。
最後は売られそうになったけど、マギ先生がいたからそこから救われたんです!
……そう言われた。
別に、そんな恩を売ろうと思って助けたわけじゃないんだよな。
たまたま、手元に処分に困っていた宝石があって、目の前に見逃すと気分が悪い出来事があった。
ただ、それだけなのに。
照れ臭かったから
「何故乱入しようと思ったの?」
そう確認した。
すると弟子は
「先生が本物の、その……グレイオールドと戦闘開始したのはすぐわかりました。……この子のおかげで」
言って手で示す。
僕の後釜の子を。
あの子はあの杖……破邪の杖を持って、僕を見てペコリと頭を下げる。
小柄な子なので、その仕草が可愛らしかった。
「でも、1分で勝負がついていないようなので、覗いたんです。戦況を」
……そういえば「戦いは長引かせるな、すぐ終わらせろ。じっくり進めようとするな」って指導したことがあった。
彼女を一人前の冒険者にするつもりで育てていたとき。
時間を掛けると相手に考える時間を与えてしまうから、やるべきじゃないってさ。
それを覚えてて、変に思ったんだな。
そして彼女はこう続けた。
「……そしたら……部屋には両手で印を結んで魔法語を唱えている人間が居るじゃないですか。そりゃすぐ分かりますよ。何が起きているか」
だからガイザーさんを呼んで介入したんです。
閃光業火が発動したら皆死ぬから。
……躊躇う理由なんて無いですよ。
そう、真っ直ぐな目で僕を見て言った。
その判断力、気づき、胆力……
もう十分、1人でやっていけるね。
僕は彼女の頭を撫でたくなったけど……
(あ、男ってバレたらこれはまずいのか?)
そう思って手が止まる。
だけど
……彼女の方から頭を差し出してきたので。
僕は彼女の頭に手を当てて
「よくやった。ありがとう」
もう一度、彼女に礼を言った。
すると
「マギ」
僕に旦那が近づいてきて。
あ、再変身してあげないとな、と思ったら。
いきなり、顎に触られ、そのままキスされた。
流石に驚いたけど。
「……これでオレの気持ちの証明ができたか?」
そんなことを照れ臭そうに言ってきて。
……僕の方も照れてしまった。
弟子は真っ赤な顔で僕たちを見ていた。
そしてリアは、何故かとても嬉しそうな顔で僕らを賞賛するように、手を叩いていて喜んでいた。
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