第96話 激闘と決着

「くそがっ!」


 閃光業火の詠唱を中断したグレイオールドは、床に突き立てていた大剣を引き抜き


 ……ネコに向かって突進していく。

 飛来する矢を、その大剣で軽々と撃ち落としながら。


 人格最低。

 品もない。


 だが戦闘力と、この世を欺く知能だけやたら高い。


 生きているだけで害悪な、最悪の魔人。


 ネコの顔が強張るが、彼女は逃げずに


 預けておいた、焔丸を鞘から引き抜いた。


 ……僕の前例があるからね。

 これをすれば、ネコも念動力の魔法を習得している可能性に思い当たり、グレイオールドに思考の隙が生まれる。


 ネコを最優先で潰すべきなのか。

 それとも焔丸の動きに注意を払うべきか。


 そしてその隙が、ガイザーさんとベネットさんがグレイオールドに接敵する隙になって。


 2体1の構図を生み出した。


 ガイザーさんは、盗賊ギルド入りしたときにギルドから下げ渡された魔法の槍を。


 そしてベネットさんは、全身を金属鎧で防御して、アニス・ハッグを殴り殺したあの戦槌を振るう。


 2人の連携は上手くできていて。

 避けるのは容易だが一撃が侮れないベネットさんの攻撃で揺さぶり、その隙をガイザーさんが攻める形。


 グレイオールドの表情が焦りと苛立ちに満ちていく。


「マギ先生! 今お助けします!」


 そのとき、ネコの大きな声が響き渡り。


 彼女は抜き身の焔丸を空中に放り投げた。


 僕は一瞬その意図を察するのに時間を要したけど。

 理解し、僕は


 念動力でその空中の焔丸をつかみ取る。


 そしてそのとき


「うざってえんだ!」


 苛立ちが最高潮に達したグレイオールドが、決断に出た。


 なんと、ガイザーさんの一撃を避けずに左肩で受けて。

 残った右手で、大剣を片手で振るって、ベネットさんの首を刎ねたのだ。


 心底、ざまあみろという顔をするグレイオールド。

 多少傷つくことを覚悟すれば、お前らなんてワケねえんだ。


 そんな気持ちだろうか?


 だけど……


 その一瞬で、僕は焔丸をいったん手放し。


 念動力を使い、宙を舞うベネットさんの首が被っている兜の、


 兜の中のベネットさんの顔が明かされて……


 そして僕は叫んだ。


「ベネットさん! 石化ブレスだ!」


 それを受け彼女は、空中でその首を停止させ。


 僕の指示通りにグレイオールドに向かって石化の吐息を吐く。


 ……石化ブレスはすぐには効果が出ない。

 ブレスを浴びてから完全に石化するまで20分くらいかかる。


 なので、結果の重大さは麻痺のブレスを上回るけど、実用性の面で言うと大きく劣るのだけど。

 すぐに結果が出る方が使い勝手は良いからね。


 だけどこの場合、逆にそっちの方がありがたいわけだ。


 ……だって


 自分が無事なのか、自分では分からないもの。


 20分後に自分が石化するかもしれないという事実は、集中力を大きく奪う。

 特にグレイオールドは、その気になれば自分で石化を治せるからね。


 迷いが出てくる。


 これが純粋な戦士なら、仲間を信じて考えずに突き進むというのもアリだけど。


 こいつにはそれができない。


 そしてヤツは、後ろに飛んで間合いを空け


「ダイワール リビルド アイアー……」


 法力魔法「全快」の詠唱に入った。

 この魔法が発動すれば、石化効果を受けていたとしても治癒できるから。


 けれど


 その一瞬の隙に、僕は焔丸を拾い直し、そのままグレイオールドの顔面目掛けて突き刺したんだ。


「ルゼ……」


 だけど。

 ヤツは最後の魔法語の詠唱をする寸前で中断し。


 僕の焔丸の渾身の刺突を、その切っ先に噛みついて防いだんだよね。


 ギリギリだ。


 僕の全力を込めたのに、僕の刃は魔人の脳髄に届かない。


 今の僕の力ではね……。


 だから僕は……


 


 念動力の魔法は、術者の筋力の最大値がその出力限界。

 なので、術者の筋力が上昇すれば、念動力の出力も上昇する。


 グレイオールドの目が驚愕に見開かれる。


 弟子が、僕を見て硬直した。


 驚かれるのは覚悟していたけど、ここはしょうがない。

 大事の前の小事だ。


 そして……


 急激に女の全力から、男の全力の強さになった僕の焔丸の刺突は。

 

 そのまま魔人の頭部を貫き。

 人間社会に寄生し続けてきた卑しい魔人の命を奪い去ったんだ。

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