第95話 ありがとう
閃光業火。
全ての魔力魔法の魔法使いは、この魔法を習得することを目標にしているんだよね。
そして僕はこの魔法の習得を諦めた。
魔術書に書かれている、この魔法の理論の部分が僕にとっては理解不能。
こんなものを理解し、実行できる人間は頭が人類を超越している。
そう思い知らされ。
僕は魔力魔法の扱いがそれなりに得意なのであって、天才ではない。
それを思い知らされた切欠のひとつだった。
その魔法の内容は「物質の最小単位の存在を融合させるときのエネルギー」をこの世界に召喚すること。
その召喚により発生する超高熱の熱線と爆風で、効果範囲内の全生命を殺し尽くす。
……防ぐ方法は……無い。
発動したときに効果範囲内に居たら死ぬしかない。
蘇生も不可。
死体が残らないからね。
だから何が何でも詠唱を終わらせるわけにはいかないんだ!
僕は念動力で刀を操り、グレイオールドの詠唱を中断させるために斬りつける。
けれど
脇から飛び込んできたゴーゴンが、その斬撃を邪魔する。
銀の角で刀を弾き、跳躍して器用にその口で刀を咥えた。
流石にゴーゴンの筋力にはどうやっても対抗できない。
だったら酸の空気だ!
そして僕が印を組んで魔法語詠唱を開始しようとしたとき。
ヴォーパルラビット3体が襲ってきた。
前足から骨片の刃を生やし、僕を仕留めようと殺到する。
こいつらの攻撃を回避する体術は僕には無い……!
だけど僕はギリギリで旦那に突き飛ばされた。
そして旦那が短剣でヴォーパルラビットの攻撃をしのぐ。
身を起こす僕に、さらに追撃として旦那を襲っていたヴォーパルラビット3体のうち2体が襲ってくる。
まだ危機は去っていないし、酸の空気を唱える隙は見つからない……!
だけどそこに、僕を庇うようにマオが滑り込んできて、刀でヴォーパルラビットを牽制する。
「くっ!」
……エゼルバードがグレイオールドに直接攻撃を仕掛けようと突進するも、彼はゴーゴンに阻まれ、魔人の詠唱を止めるまでには至らない。
まずい……どうすれば……?
「……ショサル テラス アレーズ ユス ジンラ ジンラ……」
僕らが焦り、足掻く中、グレイオールドの閃光業火の詠唱が進んでいく。
すでに、魔法が発動した場合に術者を守る透明な結界が発生している。
半径3メートル程度を守る球形のシールドだ。
なので一応、そこに逃げ込めば魔法を浴びることは避けられるけど、その選択肢を取った瞬間、相手に優位な状況になってしまう。
こちら側に駆け引きを仕掛ける余裕がなくなるから。
特に僕は、その選択肢を取った場合は高確率で殺されてしまうと思う。
僕は本来、逃げ回りながら魔法詠唱をする立場だからね。
(駄目なのか)
出来る限り準備して、挑んだはずなのに。
焦りと、後悔と、絶望。
それに圧し潰されそうになったんだ。
だけど
そのとき、グレイオールドの左肩に、矢が突き刺さった。
それが何なのか、僕は最初分からなかった。
「あぎっ!」
グレイオールドの詠唱が止まり、おそらく集中が途切れたせいで結界が消滅した。
その矢を射たのは、それは……
この部屋の出入り口に、ガイザーさんが居たんだ。
その隣に居たのは
「追撃の矢をお願いします! 閃光業火の詠唱を再開させちゃ駄目です!」
グレイオールドを指差して、強く指示を飛ばす眼鏡の若い女の子。
……ネコだった。
あの子たちは、万一グレイオールドが逃亡に転じたときに、廊下で足止めをしてもらうために連れてきたのに。
酒場で彼女と出会ったときのことを思い出した。
あのときは、こんなことは考えていなかったよ。
……ありがとう。
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