第94話 最終位階
正体を現したグレイオールド。
彼は逆上し
「ここはそれなりに楽で、良い立ち位置だったのによぉ!」
そう叫んで
「お前ら何が楽しいんだ!? 俺が巣を形成して楽しくやってるのをいっつも邪魔しやがって!」
……挑発でも何でもない、純粋な怒りをぶつけてくる。
本気で被害者の気分なんだろう。
娼婦アケミに成り代わるために積んできたものが、全てこの一瞬で破壊された、と。
……知るか。
勝手にブチキレてろ。
だけどまあ、チャンスだ
僕は印を結び、魔法語詠唱を開始する。
「カーテル デンジ ドルムト……」
そして酸の空気を発動させ、グレイオールド周辺の空気を酸性ガスに変えようとした。
前はこれがまともに決まったけど。
僕の旦那を罵倒するのに集中していたせいで
……さて、同じ失敗を2回する馬鹿なのかなキミは?
ちなみに魔法語詠唱は聞こえるように唱えた。
「くそがっ!」
グレイオールドは横っ飛びに飛んで、酸の空気の効果範囲から抜け出す。
僕の魔法語詠唱が終了する前に。
それならそれでいいさ。
すかさず詠唱を中断し、僕は追撃の念動力による刀の斬撃を加える。
全力の回避行動で体勢が崩れたグレイオールドには、この斬撃が厳しいようで。
大剣を盾代わりに使い、それをギリギリで受け止めている。
鎧が着れてないからね。
余計厳しいよね。
そこにエゼルバード、マオ、モロスが殺到してくる。
ジリ貧だね。
だけど奴は
「アレーズ ティング マハル ムドーラ!」
法力魔法第7位階「波動爆裂」の魔法を発動させた。
術者中心に強力な力の波動を放射する魔法だ。
全方位に放射された衝撃波で床が凹み、テーブル等の家具が吹き飛び。
「ぐぅっ!」
グレイオールドに殺到していた前衛3人が吹っ飛ばされる。
いや、エゼルバードは盾で受け止め、踏み止まっていたけど。
しかし、それは次の魔法詠唱を許す隙になったんだ。
「エアイー ショサル ユス ダイワール」
聞き覚えのある魔法語詠唱。
これは確か……召喚魔法!
その詠唱が終了すると同時に。
空間が歪み、2種類のアビスビーストが召喚された。
1種類は雄牛だ。
銀色の角と、緑色の金属の皮膚を持つ雄牛。
こいつは牛のアビスビーストである「ゴーゴン」
雄牛以上の攻撃力、防御力を併せ持ち、口から石化ブレスを吐く怪物。
それが1体。
そしてもう1種類は兎。
いつぞやのコロシアムで、ヌフウ兄弟を全滅させた魔界の兎だ。
1メートル近い体長を持つ、ナイフのような前歯を持つ灰色の大兎「ヴォーパルラビット」
それが3体。
増援のアビスビーストたち。
……何を……?
僕は相手の意図が読めなくなって、手が止まる。
増援を出すぐらいなら、壁を破って外に逃げ出すという選択肢も無くはないはずなのに。
だけど
グレイオールドはそこで酷く残酷な笑みを浮かべて……
床に大剣を突き立て。
両手で印を結んで魔法語詠唱を始めたんだ。
「マナ エアイーラズ ハースニ……」
僕の血の気が引く。
こいつ……
魔力魔法最終位階の究極の攻撃魔法「閃光業火」を使うつもりだ!
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