第93話 娼婦アケミ

 このクラスの娼婦になると、やっぱ住んでる部屋のレベルが違うね。


 本店の大旦那様の名前で一瞬で従順な態度になった若い黒服は、僕らを部屋に案内してくれる。

 清潔で一流の装飾が施された大きな部屋の前に連れて来られた。


 ドアもなかなか良い素材を使ってる。

 茶色の質感が実に高級。


 名前は分からないんだけど。


「マナ デンジ エノカルフ ベクタ」


 念動力。

 魔力魔法第7位階。

 事前準備だ。時間は掛けられないからこれだけで。


 そして僕はドアを勢いよく開け飛び込み。

 縦横幅10メートルはありそうな大きな部屋に侵入する。


 そこで僕は、中に居た派手な衣装の女の右腕を切断するために、マスターカタナを念動力で振るった。


 こいつがアケミか。


 アケミという女は、黒髪巻き毛の小悪魔的な20代の女で。

 猫っぽい顔つきの可愛い女だった。


 体型は小柄で肉付きが良い。


「うわぁ!」


 だけどアケミは反応が良くて。


 僕の念動力での斬撃を、飛び退しさって避けた。


 うわぁ、ね。

 女の悲鳴には思えんな。


「な、何をするんですか!?」


 アケミは怯えた表情でそんなことを。

 僕はそれには答えない。


 僕に続いてエゼルバードとマオ、あと僕の旦那も入ってくる。


 彼らには「アケミの腕を切り落とせ」と指示を出している。

 万一、僕の見立てが間違ってても。

 腕を切断したくらいなら死なない。

 何故ならここには一流の神官リアがいるからね。


 そのくらいの負傷、いくらでも治せる。


 治せるから問題ないはずない?

 それこそ大事の前の小事だよ。


 倒せるときに一気に畳みかけて魔人グレイオールドを倒す。

 それこそが最も優先されることだ!



 腕を切るのは、印を結べなくするためだ。

 印が結べなくなれば、魔力魔法を封じれる。


「覚悟しろグレイオールド!」


 エゼルバードが片手剣で腕を狙って切りつける。


 マオが微妙にタイミングを外し、後追いするように刀で袈裟懸けの斬撃で腕を狙う。


「何ですかグレイオールドって!」


 泣きながらその斬撃を避けるアケミ。

 ありえんね。


 ……2人とも一流の前衛なのに。

 ただの娼婦に避けれてたまるか。


 やってることと表情が合ってない。



 ……僕がアケミに目をつけた理由は3つ。


 1つは、あの元債務者のウィルソーが入れ込んでいた娼婦がそれだったこと。

 2つめは、エピメテウスのお気に入りの娼婦もアケミだったこと。

 

 そして最後が、アケミの周囲のお世話をしている女の子をちょっと拉致して、目覚めさせてグレイオールドの姿で色々聞いたら、平気な顔をしてどんな質問でも全部答えたこと。

 つまり、その子はグレイオールドに絶対服従する呪いを受けていた。


 この3点で、僕はアケミがグレイオールドであると断定した。


 だからもう、いろいろ面倒くさいよね。

 なので


「エゼルバード、マオ、あとモロス。命を狙っていこう。間違いないから」


 僕の一言に


 分かったとか、OKとか、おおよとか。

 返事が返ってくる。


「ちっ」


 大きく後ろにジャンプするアケミの姿をしたグレイオールド。


 その意図を察した僕は追い打ちをかける。


「あいつが変身を解くよ! そこがチャンスだ! 畳みかけろ!」


 大声で。


 グレイオールドは2メートル近い大男だ。

 150センチくらいしか無さそうな小柄なアケミとじゃ体格差がエグい。

 つまり、服がとんでもないことになる。


 ……動きにくくなるはずだ。


 これを大声で伝えることはこっちにメリットが大きい。

 1つはこっちの味方への情報共有。

 あと1つは、グレイオールドの変身解除への決断に躊躇する理由ができる。


 ……さあ、どう出る?


 アケミの姿をしたものは、僕をものすごい目で睨みつけ。

 結局、決断した。


 ずずずず、と変身が解ける。


 小柄な女から、巨漢の男に。

 黒髪巻き毛から、銀のストレートの長髪に。


 丸みを帯びた肉体が、ガチガチの筋肉が搭載された屈強な身体になる。


 そこに襲ってくる長剣、刀、短剣の斬撃。

 それを躱そうとするが。


 服のせいで動きが阻害されたのか、エゼルバードの一撃が入った。


 致命傷ではないけれど、魔人の胸を切り裂いた。


「くそがっ!」


 罵り、逃げながらその怪力で服を引きちぎって捨てる。

 すべての衣服を脱ぎ棄て、全裸になった魔人は


「しつけえんだクズが! 俺の邪魔をするなぁっ!」


 上に右手を突き出しつつ激昂し、叫んだ。


 その声に反応し。

 突き上げた魔人の右手の中に、大剣が出現する。


 魔剣か何かなのか。


 ……まあ


 ここからが本番だよね。

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