第89話 凸してくる弟子
継ぎ
ここ、疑った方が良いのかもしれない。
僕がここに来るまでに、散々研究をしてきたボーンゴーレムの知識。
それを活かす閃きがあってさ。
今、それを試している。
「サデール ギフエンス ディルマ……」
魔法陣を前にして。
僕は杖を持って魔法語を唱える。
ケイテンと雌オーガの骨を使用し、ボーンゴーレムを作成する。
ケイテンは、頭部の無い人間という表現が一番しっくりくる異種族で。
性質はバーサーカー。
物凄い強さで、ヒュームの数倍の筋力を持つ。
非常に好戦的。
まじ戦闘民族。
基本、略奪で生きている種族だ。
で、大体が略奪の過程で得た、その高い筋力を活かせるヒュームの振るう一撃必殺の武器を、片手で振るい。
もう片方の手で、大きな盾を持ってる。
……それを、雌オーガの骨と混ぜる。
僕が目指しているのは、頭部の無い筋力数倍の女性骨格。
そこにさ……
猛獣の肉を搭載し、そこにスキュラやケンタウロスからとった皮膚を張っていく。
そうすれば、首なしフレッシュゴーレムの胴体が出来るかも。
上手く行けば、外見と性能の両立が望めるじゃん。
ヤター。
僕はワクワクしながら魔法語詠唱を進め、そして
「……ナイル!」
僕の最後の魔法語で、魔法陣の中央に盛っていた素材になる生物の骨が動き出し。
砕け、集まり、新しいものに成長していく。
ああ、ゾクゾクする。
ボーンゴーレムの魔法は難易度は低いけど。
それは研究の余地が無いという意味では無いんだよ。
素材とか、組み合わせとか。
色々追及する要素はあるのよ。
そして僕の見ている前で、僕の期待通りの頭の無いボーンゴーレムが組み上がっていって
「おおおお……」
僕が興奮のあまり声を洩らしていると
「マギさん」
僕が実験をしている魔導実験室に。
仲間の研究員が入って来た。
「何? 手短に」
振り返り、要件確認。
すると研究員は
「お弟子さんが」
「ああ」
その一言で、僕は頷き
「この部屋を今、手出しさせないでね」
杖を杖置き場に置き、部屋を出る。
ネコが来た。
……何の用だろうか?
ネコは客じゃ無いので、研究所の入口で待っていた。
受付の前だ。
受付では若いケットシーの女の子が、業務を行っていた。
「ネコ、日中にここに来るだけの理由があることなの?」
「ええ。ちょっとお聞きしたいことが」
左右を見回して
「先生、禁忌の魔法って指定されたことは確実に避けるんですよね?」
この子は一体何を言うつもりだろうか?
そう思っていたら、魔法に対する質問か。
……まあ、僕は師匠だけどさぁ。
仕事中に呼び出しかけるには、それはちと弱いよ。
後日、ちょっと説教だな、と思いつつ。
「うん、そうだね」
質問に関しては答えておく。
禁忌の魔法は第6位階で、次の目標でもあるからね。
すると彼女は
「うっかり破ってしまうことは……? 例えば、犬の肉を食べるなという禁忌を掛けられて、犬の肉を羊の肉と言われて騙され、食べちゃった」
発動せず、禁忌を犯してしまう事例を上げて来た。
その事例に関しては
「それはあるよ」
肯定した。
禁忌の魔法の禁忌の避け方だけど。
それは守らなかったことの責任が問われるか否か。
そこがポイントなんだよね。
例えば朝1番に目覚めないのを禁忌に指定されたら……
前日は必ず余裕を持って寝るようになるんだ。
朝1番に起きるための誰でも思いつくそういう努力。
それを確実にするようになるんだね。
それを「面倒」「辛い」「他に用事が」なんて理由でサボらなくなるんだよ。
ぶっちゃけると、早寝をするために、仕事を放りだすようなことすら起きる。
そんな努力をしておいて、他の家族でそれより早く起きるヤツがいたとしても。
それは本人のせいじゃないし。
責められないから、禁忌は発動しない。
ネコが出した例にしたって、それは相手が騙そうとして来てて。
騙されたのだから、それは不可抗力。
騙された迂闊さはしょうがないことだから責任を問われない。
だから禁忌は発動しない。
その辺をかみ砕いて教えると
「……なるほど」
口元に手を当てて頷き。
「どうかしたの?」
そう訊ねると
「あ、ちょっと気になることがあったので、もう少し調べて足場が固まったらまた報告します」
そう言い、頭を下げて。
「お騒がせしました」
そう言い残して。
去って行った……
何の用だったのか、イマイチ分からないなぁ……?
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