第90話 弟子の進路について
その日、上物のローブを着て。
僕は冒険者の店に出向いた。
ちょっと用事があったから。
冒険者の店。
それはここ、ドレワールでもあまり外と変わらない。
店に入ると、視線が僕に集まる。
まあ、見た目は最高に設定しているし。
分からなくもない。
だけど、僕の用事はそこにはなくて
目的を果たしに行く。
「やぁ、待たせたね」
奥のテーブル。
そこには4人の人間が居た。
エゼルバード。
マオ。
リア。
あと、僕の後釜の子。
彼と彼女らは、今日は武装無しでテーブルについている。
「……盗賊ギルドはどんな感じだ?」
エゼルバードが僕にそう訊いて来たので
「幹部襲撃事件の後は、あまり大きな事件は無いね。そっちは?」
僕は飲み物で果汁入りの水を注文しつつ返答。
今日はさ、互いの調査報告と
あとひとつ、僕の頼み事をするために来たんだよね。
「なるほど……」
どうもエゼルバードの方も、網に何も掛かってないらしく。
僕は飲み物の入ったジョッキを傾けつつそう返し
「すみません。力になれず」
僕の後釜の子がすまなさそうに頭を下げてくる。
「いや、それはこっちもそうだし」
そう返して。
飲み物をさらに飲み。
「……それはまあ、それとして」
ジョッキをテーブルに置いて。
口を拭いて
頭を下げた。
テーブルの上で、手を突きながら
「は?」
ポカンとしたような声をエゼルバードがあげた。
「何の真似よ?」
マオがそう、彼に追従するように。
僕は言った。
前々から考えていることを。
「あのさ、悪いけどこの件が解決したら、僕の弟子をパーティーに入れてやってくれないかな?」
「アンタの弟子を? ……アンタのコピー人間じゃないでしょうね?」
マオがそう、僕に辛辣な言葉を。
僕は
「ああ、それは違うかな。僕よりは世間一般で言う良識ってやつはあるよ。……必要に迫れれば、僕と同じことができるように指導はしているけど」
そう返した。
するとリアが
「だったら良いんじゃ無いでしょうか? マギさんが酷かったのは、普段の倫理面だけですし」
単純な魔術師ムーブでは文句は無かったですしね。
そう彼女。
……彼女の声がさ、なんかマオより柔らかいのよな。
叩き出されたときは、マオ以上に僕のことを嫌悪していたのに。
するとエゼルバードが
「何でまた俺たちなんだ? 他にもパーティーはあるだろう?」
あえてほぼ土下座級に頭を下げて、自分のパーティーに弟子を預ける意味が分からん。
そう言いたいのかな?
そんなの決まってるだろ
「大事な弟子を預ける相手は安心安全なところにするに決まってるだろ。このパーティーなら、僕の弟子は真っ当に冒険者やれるからね」
保証があるところが良いんだよ。
変なところだと、メンバーをほぼ奴隷にしたり、性搾取したり。
そういうクソパーティー、実在するんだよ。
追剥みたいな犯罪行為専門のパーティーだって珍しくないしさ。
そんなところに弟子を預けたくは無いだろ?
そんなの普通だと思うんだけど。
そんなことを言ったら
「……卒業前よりだいぶマシになったように見えるの、その弟子を育てたせいなのか」
……なんか感心されてしまったよ。
彼らはどういうイメージを持ってたんだ。僕に。
「まあ、見返りって言ったら変だが……分かった。解決したら受け入れるよ」
そしてエゼルバードは。
そう僕に言ってくれたんだ。
ネコの将来への道が立った。
そう思ったので、彼女にそれを教えに僕は古巣の借家に向かった。
「ネコ、居るかな?」
合鍵で家に入ると。
ネコはリビングのテーブルで、じっと考え込んでいた。
ガイザーさん夫婦は外出中みたいだ。
「あ、マギ先生」
リビングに僕が居ることに気づき。
彼女は頭を下げてくる。
「ネコ、ちょっと教えたいことが……」
僕は彼女に話を切り出そうとしたんだ。
彼女にとっての朗報を
でも、この子は
「その前に先生、私に話させて下さい」
……強い調子で、僕の話を遮って来たんだよね。
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