第88話 製作者の気持ち
ベネットさんが戦槌を振り上げてアニス・ハッグに殴りかかる。
ベネットさんは戦士としての訓練は受けてないから、素人の域を出ていない。
そりゃま、旦那さんのアドバイスは受けてるだろうけど。
アドバイスを受けたくらいで、すぐ一流の戦士になれるわけがない。
どんな道でもそうだ。
だから今のベネットさんはただの武器を持った力持ち。
……もっとも。
ただの力持ちじゃ無いんだけどね。
製作者から言わせて貰えば。
ベネットさんの戦槌での攻撃は
まるで、玩具の戦槌振るってる子供みたいにね。
……本物なのにさ。
ボディ製作者として、ゾクゾクするような喜びがあった。
アニス・ハッグはまあ、危なげなく回避はしているけど。
無視できないから、魔力魔法が使えないみたいだ。
うははは、嬉しい。
圧倒的じゃ無いか。
そしてそんなベネットさんの猛攻を受けながら
アニス・ハッグはガイザーさんの攻撃も気にしなきゃいけない。
絶え間なく、目を狙ってるんだろう。
顔面狙いの矢が飛んでくるんだよね。
アニス・ハッグはその矢を時折払っていた。
当たると絶対にまずい素人の猛攻と、正確に絶え間なく目を狙ってくる弓矢の射撃。
これは……
とてもワクワクする構図だ。
さあ、どうするアニス・ハッグ?
「クラエエエ!」
その黒い爪でアニス・ハッグがベネットさんを引っ掻く。
けれど当然だけど全く通じない。
ベネットさんは分厚い金属鎧を着てるからね。
その鎧をその爪で破壊するのは無理がある。
技は素人なのに、スペックだけで圧し潰す!
どうしよう。
最強のショーだよこれは。
なので思わず
「爪でその戦士を仕留めるのは無理だぞ! かといって、魔力魔法を使う余裕はないよなぁ!」
僕もヤジその18くらいに紛れ込んで言葉を飛ばした。
これ、アニス・ハッグに届いたろうか?
するとアニス・ハッグは
バックステップを繰り返し、大きくベネットさんと間を空ける。
そこで
「カーテル デンジ ビホルト……」
期待していた通りに印を結んで
アニス・ハッグの魔力魔法詠唱。
その内容は……第1位階の「眠りの空気」
ウププププ!
吹き出しそうになった。
効くわけねーじゃん!
その人、スクライルとフレッシュゴーレムのハイブリッドだよ?
だから僕は
「おーい! 後方戦士の弓がお前の目を狙ってるぞ! 目を閉じた方が良くないか!?」
ヤジを飛ばした。
するとアニス・ハッグは……
詠唱を止めなかった。
最後の魔法語「ハタン」を発声した。
……そのリアクションを期待していたよ。
ベネットさんを標的にしない選択肢、向かってこられて殴られるとヤバイ以上、ありえんし。
そこで目を閉じろとか、標的変更しろとか。
そんなことをアドバイスするようなヤジが来たら、反発するよね。
何が何でも魔法を決めてやるって気になるよね。
……で
「ナ、ナンデ!?」
眠りの空気が全く効果無かったので、アニス・ハッグが驚愕する。
決めさえすれば多少は動きが鈍るとか思ってたんだろうね。
効果が無くて、全く速さの落ちない戦槌を右腕に喰らい、見事右腕を砕かれた。
「あぎゃあああああ!!」
アニス・ハッグの悲鳴が闘技場内に響き渡る。
観客がドッと湧く。
鋼鉄の肌を持っていても、受け付けないのは刃だけ。
鎧ごと叩き潰す戦槌を防げるわけがない。
ゾクゾクする!
その後は完全に処刑だった。
何度も戦槌を叩きつけられ、アナウンサーが
「勝利です! 勇者2人がアニス・ハッグに勝利しましたァー!!」
そう宣言したとき。
アニス・ハッグはグチャグチャに潰れた死体になっていた。
もう、まともな骨格が無くなって、軟体生物になった感じで。
ベネットさんが戦槌を掲げてアピール。
旦那さんも弓を掲げて勝利を誇示した。
それを見て
……
そう思う。
あの人のボディ、僕が作りました。
そう言いたい気分だった。
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