第87話 因縁の戦い
そしてアニス・ハッグの公開処刑の日がやってきた。
その日、僕はいち観客として休みを確保し、コロシアムに応援に駆け付けた。
「お集まりの皆さん! 今宵は最高のショーをご覧に入れます!」
アナウンサーのマイクパフォーマンス。
湧く観客。
コロシアムの場内には、すでに2人がいた。
ガイザーさんと、ベネットさんの2人が。
2人とも鎧を着込んで、武器を構えている。
ガイザーさんは一般的な戦士の装い。
そしてベネットさんは、分厚い鎧を着込んだ重戦士の装い。
ガイザーさんは弓を構えている。
背中に魔法の槍を背負いながら。
そしてベネットさんは……大金槌。
装備しているのは両手持ちの戦槌だ。
2人の装備……性別的には逆なんだけど、筋力的には順当だ。
そんな2人を前にしてマイクパフォーマンスは続く。
「スペシャルマッチ! 処刑ショーです! 裁かれるのはオナーホル街道を荒らしていた醜い食人鬼! アニス・ハッグ!」
ここで魔物を閉じ込めていた部屋の鉄格子が上がる。
ガラガラと上がり、同時に。
ぬっと。
青白い肌の巨大な白髪の老婆が現れる。
ぼろぼろの黒い布の服を身に付け、腰が曲がっていた。
その状態で、大きさが2メートルを超えている。
顔は噂に違わぬ醜さで、酷過ぎる鉤鼻と、顔中にあるイボが特徴的。
爪は黒く、まるきり獣の鋭さがあった。
目は白目が黒く、黒目が深紅。
歯は鮫のようだった。
その恐ろしい姿に、観客は一瞬気圧されるも
すぐに
「殺せー!」
「醜い化け物をぶっ殺せー!」
「やれー! 俺は処刑人たち応援してるぞー!」
口汚いヤジを飛ばす。
そんな中で混じって座りながら
僕は思った。
……民度低いなぁ。
そう思い、顔を顰めていると
「黙れニンゲン! ヤカマシイ!」
観客に向けてハッグが叫んだんだ。
観客のヤジなど掻き消す勢い。
「オマエラ! ワシは殺スのなんて簡単だ! ワキマエイ!」
しわがれた声で叫ぶ。
……コロシアム管理者に、その気になれば自分を即殺できる戦力を確保しているという脅し文句を言われているんだろうな。
だから、口撃しかできないんだろう。
今のこの化け物が生き残っていくには。
観客に手を出さずに、自分に挑んでくる挑戦者を返り討ちにし続ける。
これしかないんだ。
すると
「皆さん安心してください! このアニス・ハッグが皆さんに手を出した瞬間、こいつは当闘技場が確保している熟練の超戦士の手により、秒でミンチにされる運命です! 怯えず、この醜い悪鬼がこの勇者2名に処刑される姿をお愉しみ下さい!」
アナウンサーが、観客を安心させるために僕が予想していた通りの安全装置の話をする。
そしてアナウンサーのそんな言葉に、調子づく観客たち。
「死ね化け物!」
「罪を地獄で償えー!」
「お前のような醜い生き物は、この世から消え去れー!」
笑い声と共に、そんなヤジが。
……まあ、僕はこれを可哀想だとは思わんけど。
罵ることでは無いと思うんだよね。
こんなことを言うと叩かれるだろうから言わんけどさ。
そりゃ許せないよ?
人間をご馳走扱いして餌食にし続けたこの魔物は。
でもさ
こいつらにとっては人間はご馳走。
それはこいつらの常識だから。
それを罪として扱うのは違うと思うんだよね。
こいつらを敵として慈悲なく殺すのは構わんけど、罪人扱いして罵るのは違うだろ。
いやま、処刑なんだけどさ。この試合。
「それでは愉しみましょう! 勇者たちは悪鬼を倒せるのか!?」
アナウンサーのマイク芸が切れ味鋭く食い込んで。
「処刑ショー、レディーゴーです!」
この言葉で完全に戦いの幕が上がる。
アニス・ハッグとガイザーさん夫婦の闘争が始まった。
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