第85話 弟子と旦那と僕と

 僕はエプロンをつけて、自宅のキッチンで料理をしていた。


 ウチのキッチンはコンロが3つある、

 これ、魔法道具なのよね。


 炎水晶っていう鉱石を使用し、薪無しで火を扱う魔法道具。

 起動させると、大中小の大きさで、コンロに炎が発生する。


 ドレワールは犯罪都市だけど、こういうのは上層では進んでるんだ。

 お陰で料理がやりやすい。


 昨日、数日掛けた弟子の魅了魔法の実地訓練が終了したから、師匠としてお祝いをしてあげたいと思い。

 今日、家に招いている。


「マギ先生は~」


「ああ、そうなのか」


 リビングの食卓で、旦那と弟子が会話してる。


 旦那は僕のことを知りたいらしく、弟子と話をしたがった。



 ……ちょーっと、恥ずかしいなぁ。


 聞き耳立てる気は無いんだけど、ついつい聞いてしまう。


 僕に窮地を救ってもらったとか。

 初めて目の前で魔法を見せて貰って、魔法の凄さを教えられて衝撃を感じたとか。


 旦那は旦那で。

 オレの嫁は世間の常識に囚われないで、フラットに物事が見れるとこが良いとか。

 そのくせ、他人に受けた恩は絶対に忘れないのが良いとか。


 ……ちょっとこれは色々と……


 僕の弟子、ネコ。


 元々、この子を弟子にしたのは、弟子入り断るとバッドエンドしか見えてこない子に見えたからなんだけど。

 だからまあ、切り捨てるのが嫌だから。


 これが8割。


 あと2割は、やりがいのある仕事として、一人前の魔術師を育て上げたかった。

 これかなぁ。


 ……鑑定だけして、日々食うに困らないだけの生活。

 これに不満があったんだ。

 やっぱ、社会に何かしら働きかける仕事は大事だよ。


 そんなことを考えながら、鍋を振る。


 鍋の中の豚ひき肉の色が変わって来たので、豆板醤を混ぜて作ったソースを加え、事前に切っておいた豆腐を加える。

 ……自炊してたときは面倒だからあまり作らなかったけど、師匠の食事の世話をしてたときは良く作ってた。


 酒のアテにするのに特に喜ばれたんだよなぁ。


 まあ、麻婆豆腐なんだけど。


 これを器に盛り、一緒に同時進行で作っていた青梗ちんげん菜と卵のスープと一緒に出す。

 

 ……この2つとパンを合わせるのは邪道かなぁ。

 食べられると思うんだけども。




 僕の作った2品と、パンが並んだテーブル。


 それを旦那と弟子と僕とで囲んで


「いただきます」


 はいどうぞ。


 旦那と弟子が口をつけたのを確認し、僕も食事を開始する。


 咀嚼しながら弟子は


「……マギ先生の方が料理上手ですね」


 レンゲで僕の麻婆豆腐を食べて、ポツリと弟子がそんなことを言った。

 なんかそれは寂しそうで

 

「まぁ、それは僕の得意料理で、師匠にも気に入られた料理だからね」


 そう言っておいた。


 僕だって修行時代は師匠にやらされたんだよ。

 出来ないハズないでしょ。


 ……僕が料理できなくて、自分が出来るから。

 それで役に立ててるんだ。

 だから自分は必要とされている。


 そういう風に考えていたのかね。


 ……そういうのは違うよ。


 だから


「自分に出来ることを他人にやらせたのだとしても、それが僕の役に立ってないことにはなんないよ」


 仕事をしてもらってるだけで十分役に立ってるの。

 そんな仕事、僕にだって出来ると、キミの家事を否定するのはおかしいでしょ。


 やってもらったんだから


 そういうことを言うと、旦那が笑い出した。


 何事か、と思ったんだけど。


 彼は


「……そういうのはホント、大事にするよね。オレの嫁さんは」


 で、弟子の方に視線を投げて


「運が良かったな。たまたま出会った魔法使いが、義理人情とそういう正義感はカッチリしてる人間で」


 そんなことを言う。


 ……正直、照れてしまった。


 しかし……


 この子も、とうとう第5位階に到達したのか。

 そろそろさ、無理矢理にでもどこかのパーティーに所属した方が良いんじゃないかな。


 ここだと、集金や届け物くらいしか仕事が無いしな。

 魔術師として活躍できる場がそうそうないし。


 ……そのことについて。

 僕にはひとつ、考えていることがあったんだ。


 誰にもまだ言ってはいないんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る