最終章:邪悪を狩る悪

第83話 魅了の魔法

 盗賊ギルドの幹部ヒュドラ氏の息子エピメテウスが禁忌の魔法で魔人グレイオールドに洗脳されていたことは、ドレワールの盗賊ギルドでは重く受け止められた。


 僕の旦那曰く


「上の連中、危機意識を持ってるみたいでスゲェピリついてる。直属の部下がいつ洗脳を受けるのか分からない。そんな意識で誰にも気が許せない状況になってるよ」


 ……まずいよね。

 幹部のヒュドラ氏が刺されたことがここまで重いことを招くなんてね……


 ただではすまないとは思っていたけど、ここまでとは。

 組織としてガタガタにされてるんじゃないかな。


 悔しいけど。あんなダニに。




 まあ、そんな感じで色々マズいんだけど。

 それでも僕は生活のためと責任を果たすために働かなきゃいけないわけで。


 今日は古巣の家の方に戻り。

 弟子のネコに指導をしていた。


「いいかい? 第5位階の魔法で1番難しいのは『魅了』の魔法だ」


「それは何故ですか?」


 手帳を手にしているネコが、眼鏡の位置を直しながらの質問。

 良い質問だね。


「そりゃこの魔法が誉め言葉の効果を増強する魔法だからさ」


「……はい」


 なんか納得いっていない顔だね。


「ネコ、キミはこの魔法を使うために他人を上手に褒めるとしたら、その上手い方法って何だと思う?」


「え~っと」


 手帳をパタンと閉じ、腕を組んで思案する。


「男性は、すごいって言っておけばOKですか?」


「はい30点の答え」


 さすがにそれは合格点を出せないね。

 そう切って捨てると、ネコはショックを受けた。


「それで引っかかるのは飲み屋の底辺のオッサンだけだね」


 そう僕は断じる。


 弟子は


「じゃ、じゃあどうすれば良いんですか? 外見を褒めれば良いんですか? カッコいいとか?」


 次は動揺しながら別の答えを提示するけど、僕は


「25点」


 厳しい採点をする。


「下がったッ!」


 さらにショックを受ける弟子。


 ……しょうがないので僕は答えを言うことにした。


「外見なんて親からの遺伝が8割なんだからね。外見が良い人は生まれたときから言われ慣れてるだろうし、逆に残念な人は、そんな誉め言葉を受け付けず、侮辱に捉えるよ」


 そういってあげると、ネコ閉口。

 納得はしたみたいだ。


 僕は続けた。


「一度しか言わないからメモしなさいね」


 そう言うと、手帳の準備をするネコ。


 それを確認し、僕は言った。


「男は優秀さを褒めると基本喜ぶし、女は美しさを褒めると喜ぶ人が多い」


 ……女の方は僕の経験則だから、断言はできないけど。

 男の方は根拠があるよ。


 だって僕は男だからね。


 メモを取り終えると弟子が手を上げた。

 発言を許可するように頷くと


「……じゃあ女性は綺麗って言っておけば良いってことですか?」


 そんなトンチンカンなことを言って来る。

 なので


「違う」


 弟子の言葉を即座に否定する。

 また弟子がショックを受けた。


「……どういうことですか?」


「さっきも言ったでしょ。外見なんて親からの遺伝が8割だって。だから……」


 僕は彼女の顔の前に指を突き付け


「褒めるなら、言葉遣い、振る舞い、仕草、食べ方、様式美を褒めなさい。ある程度知性がある女性なら、そっちの美しさこそ真の美だって理解してるはずだよ」


 そして、それこそが獲得しづらい美だってこともね。

 そういう誉め言葉の方が嬉しいんだ。


 この魔法は、相手が嬉しいと思わないと効果を発言しないんだから。


 僕がそう教えると、ネコは一心不乱にメモをしていた。


 そして


「……そういうものが見当たらない場合は?」


 質問。


 ん、これは良い質問。


 僕は答える。


「そういうときは外見を褒めるんだ」


 ……最終手段だよ。外見を褒めるのは。




 で。


 僕は弟子を繁華街に連れて行く。

 実地試験だ。


 ドレワールの繁華街。

 酒場が乱立し、客引きが、通行人を店に呼び込もうとしている。


 それは普通の男の場合が多いんだけど……


 なかにはちょっとだけイケメンとか。

 綺麗なおねーさんが混じってる。


「えっと」


 弟子は……ネコはきょろきょろしている。


 ……覚悟を決めな。


 僕は彼女の肩を掴み、顔を近づけ、言ってあげた。


「この繁華街の通行人で、外見の良い人を選んで借金の申し込みをし、証文無しで合計1000ゴルド以上借りてくるんだ」


 僕がそう言うと、ネコは真っ青になって、こう漏らした


「ええええ……そ、そんな……!」

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