第74話 ヒュドラ氏からのお誘い

 盗賊ギルドから使者か。

 この間に提出した報告書で、分からないところでもあったのかな。


 まあ、スポンサーが呼んでるんだ。

 行かないと。


「分かった。使者の人は?」


「第一応接室でお待ちいただいてます」


「OK」


 言って僕は第一応接室に向かう。




「ご苦労様です」


 応接室に入室すると


「マギ主任。はじめまして」


 革張りのソファで待っていたのは見ない顔だった。

 まだ大人に成りたてって感じの、17か18の男の子。

 まだちょっと、可愛い感じだね。


 短髪黒髪で、顔は……ちょっと見覚えが。

 まあ、それは置いといて。


「あ、新しい方ですね」


 頭を下げると向こうも頭を下げる。


「これから支配人との繋ぎを担当しますヘルメスです」


 ヘルメス……


 支配人って言うのは、盗賊ギルドの幹部のヒュドラさんのことだね。

 あの人は何軒か大きな酒場を経営してるんで、彼のことは「支配人」って僕らは呼んでいる。


 というか多分


「キミは支配人の子供かな?」


「あ、ハイ。一応そうです」


 笑顔で彼は認める。


 ……やっぱり。

 なんか、目元が似てる気がしたんだよ。


「で、要件は?」


「主任に研究所内の現状を詳しく伺いたいのと、それと一緒に主任の結婚祝いをしたいとのことで」


 支配人が。


 ……なるほど。


 まあ、気遣いは嬉しいんだけど、研究の時間を削られるのはなぁ……

 結婚は僕とモロスの問題だから、祝いの席を設けて欲しいという欲求は別にないんだよなぁ……。


 とはいえ、断るわけにはいかんのよね。

 相手スポンサーだし。


「分かりました。少々お時間をいただけますか?」


 ニコリと微笑みながら、僕はそう返す。




 で。

 一応、魔法使いの正装として、持ち歩いている牙のローブに着替えて、僕はヒュドラ氏の待つ酒場に出向いた。

 牙のローブは、装備としての性能も良いけど、見栄えもするからこういうとき便利だ。

 赤基調で、緑のあしらい。

 結構高級感あるのよね。


 まあ、元々大司教のみが着用するローブだから当然かもしれないけど。


「こちらですマギ主任」


 ヘルメスさんの案内で、酒場の奥の部屋に案内される。

 例により、個室。


 ……今日は愛人侍らせてるのかなー?

 いっつもだけど。


 3人くらいのローテーションで変わるんだよね。基本は。

 その3人でないレア愛人の日は、その日は大吉。

 そんな自分占いをはじめてみたりもしてるんだけども。


 今のところ、愛人なしのパターンはお目にかかったこと無いんだよな。

 今回もそうなのかなぁ?


 まぁ既婚者に会うのなら、1体1は避けた方が失礼では無いよね。

 じゃあ今回も愛人つきか……


 あ、いや。

 ヘルメスさんがいたな。

 そう思い、僕は隣を歩く若い男の子を見た。


 そして


「おお、忙しいところすまない」


 個室に入ると……


 おお……


 今日は愛人がいない……


 超レアケース……


「今日はありがとうございます」


 だけど。

 入室して。

 僕がヒュドラ氏に頭を下げて、この席を設けていただいたことの礼を言ったすぐ後に。


「お待たせしました旦那様」


 黒のクルクル巻き毛の、スレンダーで綺麗な女性が入って来た。

 黒いドレスで着飾っている。

 ちなみに3人のヒュドラ氏お気に入り愛人の1人だ。


 その手にはワインボトルが。


 ……ああ、やっぱいるのね。

 まぁ、別に良いんだけどさ。


 別に嫌じゃ無いし。

 嬉しくも無いんだけど。

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